チーム学習の効果を最大化するにはメンバーに合わせた方法の構築が求められる

ビジネスでは既存の方法では解決が難しい問題に直面することがありますが、そんな時は、チーム学習を取り入れることで斬新なアイデアが出てくるかもしれません。

チーム学習はその名の通り、複数人で意見を出し合い議論をすることになるので、1人では導き出せない答えにも行き着くことができます。ただし、やり方を間違えると期待したような効果が得られないこともあるため、成果につながるプロセスを経ることが重要です。

そこで今回は、東洋大学の木村准教授にチーム学習の具体的な進め方や、チーム学習を行う際のポイントについてお話を伺いました。

チーム学習を行うと創造的なアイデアが生み出されやすい

クリックアンドペイ(以下KL):では、まず初めにチーム学習の手法や具体例について教えていただけますか?

木村氏:チーム学習については研究者によって様々な定義がありますが、基本的には仕事のやり方について話し合ったり、チーム内で情報共有をしながら仕事を進めたり、仕事を終えた後にもどこに問題点があったのか、どういう行動を取ることで改善できるのかを議論したりするプロセスのことを指します。私個人の研究としては、チームとして話し合っていく中でも特に新しい製品やサービスの創造、というところが一番のポイントで、その過程で3つの学習行動を抽出しました。

1つ目はオーバーラップ学習で、チームやプロジェクトの中で目標や方法、知識などをお互いにシェアするような行動のことです。例えば、自分たちのチームでどんな目標を立てるのか、何を目指していくのかを共有する。オーバーラップ学習は創造的なパフォーマンスに直接影響するわけではないんですが、メンバーの中で価値観やコンセプトがきちんと共有されていないと、自分たちの行動がきちんと目標に達しているかを評価できないんですね。営業でもどんな職種でもそうですが、お客さんに価値を提供するとか、どのくらいの売上を上げる、といった目標が定まっていないと、結果の良し悪しがわかりません。なので、まずは目標を共有し、振り返りもできるようにすることがオーバーラップ学習の目的です。

2つ目はリフレクション学習で、設定した目標に対してどれくらい達成できたのか、そのギャップを振り返る活動になります。オーバーラップ学習でチーム全体に共有した知識や情報、目標に基づいて、仕事の成果を評価するわけです。チームの中だけで自分たちの活動結果を振り返ることもあれば、外部にフィードバックを求める場合もあります。リフレクション学習ではお互いにフィードバックを出し合ったりするので、次にどんなアクションを起こしていくべきか、といったことが明確になり、創造性も高まっていきます。

3つ目は多様化学習で、リフレクション学習までだとフィードバックを出し合い、議論すること自体が目的になってしまうことがあります。そこで、もし今までのやり方で目標が達成できていないようなら、また別の方法を使って新しいアイデアを試すことが必要になるんです。多様化学習まで終えて初めて、パフォーマンスの変化や改善が生じるという流れになります。

チーム学習と個人学習は要所を押さえた使い分けが大切

KL:チーム学習と個人学習では、効果にどのような違いが生じるのでしょうか?

木村氏:チーム学習だと、お互いの意見に触発されて自分では思いつかなかったような創造的な成果が生まれやすいですね。

認知科学の分野の研究だと、これまでのやり方では解決できないような問題があると、いろいろと試行錯誤して成功や失敗を繰り返しますが、その中で従来の考え方に縛られず逸脱した行動ができた時、創造性が発揮できたといわれるんです。個人学習のように自分だけで考えていると、思考が縛られてしまうケースが多いんですよ。ある程度、背景やバックボーンが違う人同士で話し合ったり、意見交換をすると個々の考えの制約を超えたアイデアが生まれることがあり、それがチーム学習の一番のメリットであり効果的なポイントといえます。

ただし、全てチームでやればうまくいくのかというと、そういうわけでもなくて。社会人の方でもブレインストーミングをして集団でアイデアを出すのがいいんじゃないか、と考えている方は結構いるんじゃないでしょうか。ですが実は、ブレインストーミングをするよりも個々人でアイデアを考えてきた方が独創的なアイデアが出てくる、ということは結構古くから研究結果として出ているんです。

KL:個人の方がアイデアを生み出しやすい理由としては、どういったことが考えられるのでしょうか?

木村氏:まず、初めから集団の中で意見を出すと、メンバーに否定されてしまうんじゃないか、という評価懸念が働くためです。加えて、ほかの人と話す時は相手の発言を聞いたり、反応を見たりすることが必要になるので、アイデアの発言をブロッキングされてしまうことがあります。さらに、同調圧力も影響してきます。集団になると、なんとなく暗黙的なルールや空気が出来上がってしまって、議論の方向性が見えるとそれに反するアイデアや意見を出しにくくなりますよね。誰かが意見を出すと、同調しかできなくなってしまう。なので、チームで話し合えばいいアイデアが生まれるというのは結構誤解があるところで、その時々でチーム学習をすべきか個人学習をすべきか、何に取り組んでどうやって話し合えばいいのか、ということはよく検討する必要があります。

KL:対面とオンラインでのチーム学習についてもお聞きしたいのですが、どちらの方が高い効果が見込める、といった違いはあるのでしょうか?

木村氏:対面がいいか、オンラインがいいかについては結構難しくて、明確な答えは出しづらいところです。

対面とオンラインの違いで考えると、対面は周りに見られているという緊張感を持って取り組めますし、対面なら「この人、こういうこと考えているのかな」とか「こうしたら評価してもらえそうだな」とか、やったらまずいことについても学ぶ機会が多いことが利点といえます。オンラインだと新入社員は職場の雰囲気がつかみづらかったりしますし、集団とは空気感も違うので、やりにくさを感じる人もいるでしょう。
ですが一方で、対面だとよく発言する人や、上司など権力がある立場の人に意見が左右されがちです。そういう意味では、オンラインの方が一人ひとりに発言を促したり、アイデアを考えるための時間を落ち着いて取りやすいと考えられます。どちらも一長一短なので、アイデアを出し合う段階ではオンラインを使って、一気に仕事を仕上げたりする時には対面で動く、というようにうまく使い分けをする必要があるかもしれません。

メンバーの状況に応じた対応ができてこそチーム学習は活きる

KL:続いて、チーム学習における問題点と改善策について教えていただけますか?

木村氏:チーム学習も万能ではなくて、状況によっては創造性が阻害されてしまうことがあります。

私の研究でもいくつか明らかになっていることがあるんですが、まず性格の違いによってチーム学習がうまく機能しなくなる事例がありました。例えば、協調性が高く周りの人に対する思いやりが強い人、ほかの人の考えに従うタイプの人は、チーム学習をやっても自分の意見を発信することを抑えてしまうんです。これは社会心理学的にいえば、集団規範やほかの人の反応を見てそれに従う同調行動にあたりますが、協調性が高い人は同調もしやすいことから、チーム学習の効果が薄くなってしまうわけです。

また違うパターンでは勤勉性が低い、つまり計画性や責任感があまり高くない人。タイプとしては1人で動く芸術家や起業家に近いんですが、そういう人は結構突飛な考えを持っていたりするんですね。あまり人の意見やルールに従わなかったりするので、サラリーマンだとあまり良くないと思われるかもしれませんが、周りに左右されずに自由で独創的なアイデアを生み出せたりします。なので、創造性が高いといわれる人たちでもあるんですが、個人ではなく集団で動くとなると、集団規範から逸脱しやすいんです。チーム学習が活発になってくると反抗心が出てきたり、居心地の悪さを感じてしまって、発想が抑制されることがある。
ただ、だからといって人と関わるのが苦手だ、と言っている人をみんな1人でやらせてしまうと、チームの目標に対する理解が浅いままであまりいいパフォーマンスを上げられない場合もあります。こうした事態を防ぐためにも、最初のチームミーティングでしっかり目標やコンセプトなど核となる部分を定めて共有し、現状を確認した上で分担していく方法を取るなど、工夫していくことが大切です。

メンバーの性格によっては、チーム学習よりも個人でアイデアを考える時間を多めに取る方が高い効果が見込めるケースがあるので、自分たちのチームに最も適したやり方を考えてください。

KL:ここまでのお話を伺っていて気になったのですが、チーム学習をきっかけに、かえって誤った知識を得てしまったり、犯罪などに使われてしまうようなケースも有り得るのでしょうか?

木村氏:グループシンクという研究分野になるんですが、戦争などではよく見られる状況です。

キューバ危機の時のアメリカや、チャレンジャー号(スペースシャトル)の打ち上げ失敗時、日本だと原発事故や企業内の様々な不祥事などが当てはまります。組織内部の関係性が全会一致を志向し、なんでも集団で決めているような環境だと、反対意見を一切言えないような集団規範が出来上がってしまうんです。その上、内部の人たちがエリート意識を持っていたり、独裁者的な人がいて言うことを聞かなければいけない状況になっていると、集団のルールを守って社会のルールを破るようなことが起きてしまう。それこそ「赤信号みんなで渡れば怖くない」の集団極性化が働いて、集団だからこそリスクがある選択をしたり、カルト宗教の事件のように社会のルールから逸脱した間違いを犯してしまうわけです。

組織の中にいると、そこの考え方からなかなか抜け出しにくくはなってしまうかもしれませんが、こうしたマイナスの反応が起こる可能性もあらかじめ頭に入れておくと、いざという時の危機回避につながりやすいのではないかと思います。

チーム学習の効果を上げるには最初の目標設定が欠かせない

KL:ありがとうございます。まとめとして、チーム学習を行う際に大切なことを教えていただけますか?

木村氏:チーム学習を行う際に大切なこととしては、大きく2つのポイントがあります。

1つはミーティングや打ち合わせなど、集団で話し合いをする時には、ただ漠然と行うのではなく、どうやって進めていくのかを決めて意識的に進行することです。そうしないと、参加者が発言しにくくなってしまったり、創造的なアイデアが出にくくなってしまうので、目標を定めてきちんと振り返るようにしてください。特に、仕事で達成したいコンセプトであったりゴールを共有しておくことは非常に重要です。どの程度の水準のゴールなのかが決まっていないと、自分たちの今の状況と目標との間にどれくらいのギャップがあるかが明確にならず、どうやって話し合いを進めていけばいいかがわかりません。集団で話しているとアイデアを出すことにばかり焦点が当たってしまいがちで、コンセプトが明確でないと結局一人ひとりバラバラの意見を出して終わり、チームとして良い成果を上げられなかったりします。個々の考えを活かすことは当然大切ですが、チームとして何を達成すべきなのかは最初に確認しておきましょう。

もう1つは、状況に応じて適切なアプローチを取っていくことです。私の研究では、集団特性というチームの雰囲気によっても学習効果が変わってくるという結果が出ています。書籍などではよく、こういうチームが良いチームだとか、理想的なチームだとか、あるいは心理的安全性が高いといいチームだとかいわれますよね。ですが現場の人たちにとっては、自分自身にチームのメンバーを選ぶ権限がないので、集められたメンバーに心理的安全性が全然なかったとしても、与えられた条件下でうまくやるしかないわけです。なので、「理想的なチーム」を追い求めるのではなく、「このチームはこういう状況だから、こういう学習をした方がいいんじゃないか」と考える柔軟な発想が大切になります。

もし、現場に個人を尊重する風土がある場合は、それぞれのアイデアを積極的に発言してもらうために多様化学習が効果的です。反対に、個人のが尊重されずアイデアを出しても批判されてしまうこともあるかと思いますが、その場合はチーム学習の中で誰かが発言したものをそのまま取り入れるのではなく、そのアイデアが本当に良いものかどうかを分析した上でディスカッションする、というプロセスを踏めれば有意義なものになります。そのためにはチームの目標やコンセプト、知識を共有するオーバーラップ学習やリフレクション学習が効果的だということがわかっています。お互いの評価基準が共有できていると、自分たちのパフォーマンスも適切に評価できるようになり、創造性が高まるという研究結果が出ているので、今の自分たちのやり方が達成しようとしている目標に対して正しいアプローチなのか、振り返る機会を設けてみてください。

また、集団の中で一致団結感があるような場合は、同調圧力が発生してアイデア自体が出にくくなりがちです。そういう時は、チームの中で意図的に新しいアイデアを出すために多様化学習を取り入れることが効果的です。そうではなく、一致団結感が低い場合は、その欠点を補うためのオーバーラップ学習やリフレクションが効果的となります。

チームの雰囲気や特徴に応じて学習行動を選ぶことができれば、チーム学習は創造的なアイデアを生み出すための大きな力になります。ぜひ、自分たちのチームに適した方法を探してみてください。