自動運転技術は近年、急速な発展を遂げています。
ドライバー不足対策や自動車事故の減少・防止のためにも、自動運転技術は今後さらに注目されるものとなっていくでしょう。
そこで今回は、金沢大学の菅沼教授に自動運転技術の現状や、今後の展望についてお話を伺いました。

菅沼 直樹 / Naoki Suganuma
金沢大学 高度モビリティ研究所 教授
【プロフィール】
2002年金沢大学大学院博士課程修了.博士(工学).
2002年日本学術振興会特別研究員PDを経て,同年金沢大学工学部助手に着任.
2015年より異分野融合の研究を主任務とする金沢大学新学術創成研究機構に移籍し,
同機構自動運転ユニット ユニットリーダーに就任し,2019年より同機構 教授に就任.
2021年に金沢大学の全学的な組織として,自動運転自動車をはじめとするモビリティ
技術の高度化とその社会導入を目指す金沢大学 高度モビリティ研究所が新たに発足され,
現在 同研究所 副所長を務める.
また2024年に (株)ムービーズを設立し,現在同社の代表取締役を務める.
1998年から自動運転自動車の研究を開始し,2015年からは国内の大学として初となる
市街地での公道走行実験も開始.
自動運転技術はすでに身近なものになりつつある
KL:まず最初に、自動運転技術が開発されるようになった背景について教えていただけますか?
菅沼氏:自動運転技術は結構歴史が古くて、もともとは1960年代頃から研究開発はスタートしていました。
その頃は当然、今みたいにコンピュータもセンサーもリッチではなかったので、なんでもできるような自動運転ではありません。ですが、高速道路で自動運転ができれば物流がスムーズになるだろうとか、交通渋滞が削減されるだろうといったところが自動運転の開発が始まったきっかけです。その流れで国際的なプロジェクトも行われ、自動運転技術は発展してきました。
その後、2000年代の中頃から市街地も走れるような自動運転が脚光を浴びるようになってきまして。市街地も走れる自動運転なら、単に物流や交通渋滞への対策だけではなく、タクシーに使ったらどうなるだろうとか、公共交通機関としてバスに使ったらどうだろうとか。普段の暮らしに直結するようなところでも自動運転が使えるかも、ということで、現在は利便性や快適性を追い求めた開発にシフトしてきている状況です。
KL:すると、自動運転技術は個人で購入する自家用車よりも、仕事で使われるような車に多くなっているのでしょうか?
菅沼氏:そうですね。自動運転は、おそらく皆さんが想像しているものとは少し違っていて、大きくわけると2種類あります。
1つは公共交通機関向けに開発されている自動運転、もう1つは個人が所有する車の自動運転です。公共交通はサービスカー、個人所有の車はオーナーカーという言い方をするんですが、どちらもプリクラッシュセーフティやレーンキープアシストといった、いろいろな技術が急に身近に手に入るような状況になっています。もちろん、サービスカーでもオーナーカーでも、自動車産業の方々は安全性について特に重視して開発されています。その上で、サービスカーはオーナーカーに比べると価格が高い分、追加の利便性や快適性が備わっている。なので大きなコンセプトとしては、サービス業の様々なところで自動運転搭載車を使っていただいて、そこで培った技術をオーナーカーにも展開していこう、という流れになっています。
自動運転車は無人運転が可能なレベルに到達している
KL:なるほど。続いて、自動運転のレベルの違いについても教えていただけますか?
菅沼氏:自動運転のレベルについては、機関によって定義が少しずつ違っていたりするんですが、よく見るのはレベル1〜4ですね。場合によっては5まで存在します。
ただ、最初に理解しておいていただきたいのは、これらの区分は自動運転システムの「レベルの高さ」を示すものではない、ということです。レベルの違いは、「自動運転としてどういう機能を持っているか」という差でしかないんです。
ではレベル1〜4は具体的にどんな機能なのか、ですが、レベル1は自動的にハンドルを切ったり、アクセルやブレーキを自動的に動かす機能、どちらかだけでもあれば該当します。例えば、高速道路ならほとんど一定の速度で走ってくれるんですが、前に車がいたら減速してくれるといった機能を持っている場合はレベル1です。レベル2では、前後の車間距離の調整に加えて、ハンドルも自動で切ってくれるもの、が条件です。レベル2までの車については高級車などではよく搭載されるようになってきているので、もうあまり珍しくはないかもしれません。
続いてレベル3になると、ある一定の条件を満たした範囲内においてはドライバーが運転の責任を問われなくなります。例えば、高速道路で一定以下の速度しか出せない場合、渋滞中ということになりますが、そういった条件を満たしている範囲内であればドライバーが操作をする必要はありません。ただし、システムがもうダメだと判断したらドライバーは必ず運転を代わらなければいけないので、眠っていてもいい、ということにはならないので注意が必要です。レベル3以上になると認可されているものは非常に少ない状況で、国内でも販売されているものはほぼほぼレンタルですね。
そして、レベル4ではあらかじめ決められた条件、いわゆるODD(オペレーショナルデザインドメイン)というものなんですが、エリアや天候、時間帯などにおいて、自動運転の車が停止から発進、発進から停止まで含めて全て行い、何か問題があったら止まるところまでを自動でやります。さらに、どうしようもなくなった時には最小限のリスクに留めるための行動を取る、というものがレベル4とされています。レベル4に相当する自動運転搭載車は、今はアメリカや中国で一部サービスが提供されている状況です。
さらに上のレベル5については、ODDの条件がほとんど排除されていて、人間が運転できるような状況なら基本的にはどこでも運転できる、というものです。ただし、レベル5は現実的にはまだ出ていないので、現状存在するのはレベル4までになります。
KL:もう自動運転はかなり私たちの身近なところまできているのですね。現在、実装されていることが多い自動運転技術であったり、運用する中で見えてきている問題点など、現状についても教えていただけますか?
菅沼氏:レベル2については先ほどもお話ししたように、ハンドルから手を離しても普通に走ってくれるような市販車が多くなっていますね。高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違いなどを防止するような自動運転技術もすでに製品化されていて、昔は高級車向けだったものが、徐々にローコストな車にも搭載されるようになってきています。
レベル3については、一定速度以下の時に全自動モードにできるような仕様になっています。基本的にハンドル、アクセル、ブレーキまで全部自動で動かしてくれて、ハンドルから手を離していても構わない。それからモニターを見ていてもいいので、ほぼほぼ自動運転に近い状態を体感できるかなと思います。あくまでレベル3なので、何か問題があったらすぐに人間が運転しなければいけなくて、完全にリラックスできるわけではないんですが、レベル3なら未来体験がしやすいのではないでしょうか。
レベル4の無人で動けるサービスカーは日本国内ではまだ少ないですが、アメリカや中国ではすでにサービス展開が始まっていて、例えばカリフォルニアのサンフランシスコではロボットタクシーのサービスが提供されています。専用のアプリを立ち上げるとUberのように自動的に配車が行われ、空港まで無人タクシーが迎えに来てくれて、無人のままダウンタウンのホテルまで連れて行ってくれるとか。日本でいう右折や左折も完全に自動で走ってくれますし、駐車から降りた後の帰路まで全部自動です。
事故の際の責任の所在がシステムかドライバーかはよく検討が必要
KL:自動運転が普及し始めている現状から法整備についてもお聞きしたいのですが、仮に事故を起こした場合、システムの責任かドライバーの責任かはすでに明確な区別があるのでしょうか?
菅沼氏:少なくとも、レベル2でいえば主権は基本的にドライバーにあるので、何か問題があった際の責任もドライバーにいくことになります。
ですが、レベル3になるとシステムが運転を行う時間帯が存在するため、その範囲内においてはメーカーや運行管理会社などが一義的な責任を負うことになると思います。残念ながら、自動運転も開発段階から世に出た後まで事故の事例も多少はありまして。アメリカの会社の自動運転搭載車が人を轢いてしまったことがあるんです。ただ、これは若干不幸な事故で、他の車がはねてしまった方を自動運転搭載車がさらに轢いてしまった、というものだったので、事故そのものは自動運転だったから起きたとは言い切れません。ですが、まずかったのが車の下に人がいる状況にもかかわらず発進してしまおうとしたことで、その後の報告も遅れたために問題視されています。
少し複雑な事例の紹介になってしまいましたが、大切なのは、自動運転が広く世に普及していった後も、事故の責任がドライバーとシステムどちらにあるのかは重要な問題点として考えなければいけない、ということです。やはり人間が運転しても事故は起きてしまいますし、例えば今だと人と車がぶつかったら人が危ない動きをしていたとしても全部車が悪い、となりますが、自動運転が一般的になった後もそれでいいのかどうか。そういった部分も含めて、今後さらに検討が必要です。
KL:自動運転搭載車の運用も、様々な難しい問題があるのですね。自動運転搭載車の実装が進んでいるアメリカや中国では、全体的に自動運転は推進の方向性になっているのでしょうか?
菅沼氏:私が理解している範囲だと、自動運転の捉え方については両極ですね。
私のように便利だからぜひ使いたい、と思う人もいれば、こんな危ないものは来ないで欲しいとか、タクシーやトラックのドライバーで職業を奪われるのでやめて欲しいと思っている人も結構います。以前、カリフォルニアのダウンタウンを自動運転搭載車が走っている時には、強制的に人に止められて放火されてしまったというような事件が起きたりもしているので、必ずしも全員が自動運転に対してポジティブな印象を持っているわけではないですね。
ただ、職業を失う可能性については考え方次第で、自動運転の普及によって運転手がいらなくなるというのはその通りなんですが、そもそも今はドライバー不足が深刻化しています。タクシーのドライバーは日本でも全国的に10%ほど、世の中のニーズに対して供給が追いついていない状況ですし、2024年問題で運送業の方々の労働環境改善が実施され、ドライバーの方々の時間外労働に上限も課されました。こういった状況下で、そもそものドライバー不足を補う側面から見ると、自動運転の普及はウェルカムな部分もあるのではないかなと思います。
それに、自動運転搭載車が普及していけば、その車を監視する人も必要になるので、新たな雇用が創出されます。自動運転技術は基本的に、何か起きた時に遠隔で対応しようと思っても難しいので、前提として車のシステム側で1つだけでなく2つ、3つと何重もの安全対策を取った上で、それらの安全対策があってもどうにもならない事態になったら停止する仕組みです。運行管理者は、その際の解決方法を教えるような役割になってきます。こういう新たな職業が生まれるというポジティブな面も、丁寧に説明していく必要がありますね。
自動運転技術は将来暮らしの根本を変える可能性を秘めている
KL:貴重なお話、ありがとうございます。最後に自動運転技術の今後の展望として、どのような発展や変化が起こると考えられるのか、それを踏まえてビジネスチャンスにつなげられるポイントについて、アドバイスをいただけますか?
菅沼氏:今後の展望については、まず現状の自動運転搭載車は車の延長線上にあって、無人で良くなったら便利だし安全だよね、というところが中心になっています。
昔は東京などでも街中の道路の上に路面電車が走っていましたが、戦後の高度経済成長期にモータリゼーションが起きて、自動車が走りやすい町づくりが行われました。それでどんどん路面電車がなくなって地下鉄が増えたんですが、地方では路面電車がなくなった後、そのまま道路だけができたんですよ。何が言いたいかというと、もし自動運転搭載車がどんどん普及していったら、そもそも町づくり自体も一変する可能性があるんです。それこそレベル4以上の自動運転搭載車なら、無人で迎えに来てくれて無人で帰ってくれるので、駐車場がいらなくなる。そういう状況になれば、少子高齢化の影響で公共交通機関の維持が難しくなっている地域でも自動運転搭載車で代用ができるようになり、交通に関する格差が減っていくのではないかなと思っていますし、そういう方向性が自動運転技術の理想かなと。
ただし自動運転搭載車は、安全に運行するためにカメラ以外に何種類ものセンサーをつけて、絶対に問題がないような状況を作り出した上で無人運行をしています。中にはカメラだけで自動運転システムを作る、といっている会社もあるんですが、カメラだけで本当に人間以上の能力を持つことができるのか、絶対に問題がないとどうやって証明するのかはかなり難しい問題です。そういう意味でいくと、オーナーカーで全自動の自動運転搭載車が普及するには、近い未来の実現はなかなか難しいのではないかなと考えています。
とはいえ、サービスカーとしての自動運転の普及はどんどん進んでいっているので、一般の方がそもそも運転しなくても良くなる割合は徐々に増えていくと思います。例えばタクシードライバー不足が解消されたり、公共交通機関がより便利になる、などですね。こういった状況を踏まえると、それこそ自動運転技術に伴う様々なサービスはこれからどんどん広がっていく段階なので、新たな雇用に着目するのはビジネスチャンスになり得るでしょう。