SDGsによって注目を集めるようになった食品ロスですが、実際にどんな取り組みが行われているのか、食品ロス削減のために何をすれば良いのか、わからないという方も多いのではないでしょうか。
食品ロスは、実は私たちの非常に身近なところで起こっており、あるいは自らが起こしており、少し意識を変えるだけでも改善できる部分が多々あります。さらにビジネスの側面から見ても、SDGsへの取り組みは大きなアピールポイントになり得ます。
そこで今回は、食品ロスの実情や削減に向けてできることだけでなく、食を取り巻く問題から考えられるビジネスの可能性まで、大正大学の岡山朋子教授にお話を伺いました。
岡山 朋子 / Tomoko Okayama
大正大学 地域創生学部地域創生学科 教授
【プロフィール】
静岡県生まれ
名古屋大学大学院環境学研究科修了、博士(環境学)
専門は廃棄物管理、循環型社会政策論
名古屋を中心とした食品リサイクルの取組である「おかえりやさいプロジェクト」のリーダー、同プロジェクトは2018年生物多様性アクション大賞・環境大臣賞受賞
『ごみについて調べよう1〜3』あかね書房(2019)を監修
食品ロスの定義は実は「人によって変わる」非常に曖昧なもの
クリックアンドペイ(以下KL):まず初めに、食品ロスとは何か教えていただけますか?
岡山氏:食品ロスとは何か、をお話しするには、まず食品ロスと食品廃棄物の境目について理解を深める必要があります。
食品ロスという言葉が有名になってきたのは、おそらくSDGsの12番目の目標の3番目のターゲットに挙げられたためかと思います。おそらく皆さんの理解としては、食品ロスは「まだ食べられるのに捨てられてしまう食品」という感じだと思うんですが、実はSDGsの食品ロスは‘’food waste‘’で、日本語だと「食品廃棄物」なんですよ。しかし、日本語の食品廃棄物は食品にまつわるごみ、つまり生ごみのことですよね。生ごみは可燃ごみの中でも多くを占め、自治体によって20~50%くらいの違いはあっても、およそ4割が生ごみ。ですがその生ごみの中には‘’edible‘’なもの、つまり「食べられずに捨てられた可食部」があるはずなんです。それが‘’avoidable food waste‘’=「廃棄回避可能な食品」で、これが食品ロスにあたります。SDG12.3における‘’food waste‘’も‘’avoidable food waste‘’のことで、意味するところは同じです。ただ、‘’possibly avoidable food waste‘’ の定義が難しいです。これについては後ほど説明します。
KL:具体的には、どういったケースが食品ロスに該当するのでしょうか?
岡山氏:皆さんはもしかすると「食品ロス」と聞くと、コンビニで大量に売れ残った恵方巻きを思い浮かべるかもしれません。でも、ここでは家で出る食品ロスの例で説明していきましょう。
普段、家にある食品は大体スーパーなどから買ってきますよね。ではスーパーで何を買うかといえば、一般的には野菜や魚や肉、料理に使う食材です。そうすると、硬い皮であるとか骨であるとか、料理に使えない生ごみが出る。骨なんかは出汁を取ることはできるかもしれませんが、食べることは難しいので、これは食品ロスではなく「生ごみ」ですよね。
しかし一方で、大根を1本丸ごと使い切れずに1/3傷んでしまったとか、あるいは賞味期限を過ぎた豆腐とか、そういったものが使われないまま生ごみになってしまうケースは食品ロスにあたります。なお、ここで注意していただきたいのは、賞味期限は作りたての美味しさの保持期間ですから、期限が切れたからと言って美味しく無くなるわけでもないし、まして食べられなくなるということはありません。賞味期限切れの食品は全く問題なく食べられます。ですから賞味期限切れ食品の廃棄は、紛れもない食品ロスです。それからお惣菜とか、あるいはほとんど調理済みのインスタント食品、冷凍食品などもスーパーではたくさん売っていますが、そういう食べる直前まで出来上がっている食品も結構捨てられているんです。また、これらも期限切れを理由に捨てられることが多いですね。他にも、一度調理したものや、食べ残しをいったん冷蔵庫に戻すような場合も捨てられることがあります。例えばご飯を炊いて残ったものを冷凍しておいたけれども、次にご飯にしようと思った時には新しく炊いたからいらなくなったとか。ホールでケーキをもらったけれど、半分食べて満足してしまったから残りは捨てるとか。つまり家庭でいうと、使えなかった食材と、食べきれなかった調理済みの食品や食べ残しが食品ロスであり、そうではない調理くずなどは生ごみです。
ただ問題は、今のように説明すれば感覚として食品ロスがどんなものかはわかっていただけるものの、‘’edible‘’ つまり物理的に食べられるかどうかで判断すると、食品ロスの定義は非常に難しくなります。例えば、「大根の皮は食品ロスなのか」と考えると、人によって答えが変わります。さらに混乱させるのは、国が食品ロスの定義の一つとしている過剰除去。これは、例えば大根やニンジンの皮を厚く剥きすぎたものなどが該当します。しかし「大根の皮を何ミリ以上剥いたら食品ロス」といった基準はありません。驚くことに、この過剰除去が家庭から出る食品ロスの11%を占めていることになっている。しかし、環境省が自治体に補助金を出して食品ロスの排出実態調査を行ったことがあったのですが、その時の手順書には過剰除去は調べるのが難しいから調べなくていい、と書いてありました。にも関わらず、国の定義は、さっきお話ししたような厚剥きの大根の皮とか大きめに切られたきゅうりのヘタなんかを含めて食品ロスとして大雑把にひとまとめにしているとしか思えない分類になっています。実際、私たちがごみ調査をした際、典型的な「過剰除去」を見つけるのは本当に稀です。ですから、国が言っている食品ロスの実態は、現実とはかなりかけ離れていると思います。食品ロスの定義や調査についても、まだまだ満足なレベルまでは至っていないんです。
KL:そう言われると、「どこからどこまで食品ロスか」は非常に難しい問題に感じますね。
岡山氏:大根の皮もにんじんの皮も、食べようと思えば食べられますが、調べてみると料理によって食べたり食べなかったりする人が多いんですよ。キャベツやレタスの外側の2〜3枚は、もちろん食べられるけれども、まるで包装紙のように扱って食べない人が圧倒的に多いです。サンドイッチを作った際にカットした食パンの耳も、大半の人は「食べられる」と言いますが、調理くずであるともいえます。なので、食品ロスって実はかなり主観的な話で、「食べようと思えば食べられる」「自分は食べるけれども、他の人は食べないかも」というものも結構たくさんあるんです。
また、家でご飯を食べている時、唐揚げを床に落としてしまったら皆さんはどうするでしょうか。おそらく、食べる派と食べない派でわかれますよね。食べずに捨てれば、その唐揚げは食品ロスになります。しかし、こういう食品ロスを減らそうとしたら、食べない派の人にも「食べろ」と強制することになってしまう。人それぞれ常識や価値観が違って、どこからどこまで生ごみとして扱うかも違うのに、「食品ロスになるから全て食べろ」は難しいですよね。
ですので、大根の皮のような可食部については、私個人の意見で言えば、広義の食品ロスであるかもしれないけれど、狭義の意味での食品ロスに含めなくても良いのでは、と思っています。例えば、大根を全部食べることより、賞味期限を過ぎた食品を全部食べることの方が、食品ロスの削減としてはるかに優先順位が高いからです。
事業者にとっての食品ロスは非常に扱いが難しい問題
KL:そうですね。家の床に落ちた唐揚げも、落ちた時点で食べない人もいるでしょうし、平気で食べる人もいるかもしれません。どこに落としたか、何を落としたかでも変わってきそうで、一律に判断することは難しいと感じます。
岡山氏:事業者の食品ロスの問題は、家庭とは異なる複雑さがあります。
例えば、フライドチキンを揚げている店において、その油を捨てると食品ロスになるでしょうか。私は以前、揚げ物をする時の油は何回か使って捨てていたんですが、油が高くなってきたのでもったいなくなって、一度揚げ物をした後、炒め物をする時に敷く油に使い、全部使い切ってから次の揚げ物をするようになりました。揚げ物に使った油は別に食べられなくなるものではないから、食用として全部食べることはできます。ですから、油を捨てると食品ロスになるとも言えます。しかし、事業者の廃食油を食品ロスだから全部食べろなんてことにはならないですよね。お店では家のように別の料理で食べ切ることはできませんから。そもそも、飲食店でよく出る食品ロスは何かというとお客さんの食べ残しです。別のファーストフードチェーン店は「自分たちは食事の提供まではするが、それを食べ残すかどうかはお客さんに委ねられているので、全て食べろと強制はできない。なので、食べ残しは自分たちのせいで出た食品ロスにはあたらない」というスタンスを取っています。企業によって食べ残しという食品ロスの考え方が違います。そもそもお客さんの食べ残しイコール食品ロスとされても、どこまでが食べ残しなのか。例えば、居酒屋で、お刺身についているつまや大葉などは食べ残しでしょうか。しかし、普通に考えて、お客さんに持って帰れと言うことはできない。お客さんの方も食べ残しとは思っていないでしょう。このようにデコレーションみたいな食品ももちろん食べられるけれど、はじめから食べるものとして提供されていないこともある。だからといって、つけないわけにいかないものもあるわけです。
製造業からは悲鳴も聞こえます。例えばおからは豆腐工場から必ず出てくる副産物ですよね。それを企業努力によって、できるだけ家畜の餌などにリサイクルしようとしてきました。ところが、おからも可食であるということで、食品ロス削減の観点から、急に食用にしろ、つまり人に食べさせなさいということになってしまったんです。おからは産業廃棄物であるという判例もある上、SDG12.3では、家畜の餌にリサイクルした場合は食品ロスになったとはみなさないというルールがSDGSにあるにも関わらず、おからは食品ロスだからリサイクルではなく食用に加工しろと言われる。このように、可食ならば食品ロス、という境界で線引きされた事業者は、その不合理さに非常に困っています。
KL:なるほど。今例に挙げていただいたお刺身のつまや、豆腐製造時のおからなどは、食品ロスだと言われてしまうと確かにかなり辛いところですね・・・。ちなみに、家庭で出る食品ロスと飲食店など事業者から出る食品ロスとでは、どちらの方が多いのでしょうか?
岡山氏:結論からいうと、家庭と全事業者とで食品ロス全体の量的には同じくらいです。
ただし、事業者はスーパーから食品メーカーまで全て含めての量なので、感覚としては家庭から非常にたくさんの食品ロスが出ていると言えます。メーカー、スーパーや飲食店など事業者の食品廃棄物に関しては、2001年に施行された食品リサイクル法という法律があるので、業種によって目標率が違いますが、それぞれ食品廃棄物のリサイクルの義務があります。最も低い飲食店のリサイクル目標値は50%です。メーカーは95%の目標値をすでにクリアしています。このように、法令で定められているように事業者は食品廃棄物を堆肥や餌にリサイクルするように努力しているんですが、そうすると事業者もお金がかかるじゃないですか。普通ならコストカットしたいところなので、事業者としては最初から食品廃棄物を出さないようにしようと、例えば飲食店はご飯のサイズを何種類か用意したり、日持ちがする素材を使った長もちするレシピを開発したりして工夫しています。こういった努力もあって、事業者の食品ロスはすでにかなり削減されている状況なんです。実は2022年に、2030年までに達成するべき食品ロス半減の目標を達成しているのです。
なのに、これ以上の食品ロス対策を事業者に求めるとなると、ビジネス面にマイナスの影響を与えてしまうリスクも考えられます。例えば、ある製パンメーカーのよく売れている食パン2枚で具を包み込んでいるようなサンドイッチがありますよね。この商品は食パンの4辺を閉じて耳を切り落としているのですが、この製造過程で出る食パンの耳って食品ロスになるかどうか、結構微妙なところだと思いませんか。以前、食品ロスになるかどうかを65品目の食品で調査したことがあったんですが、食べられないものとして一番高かったのがアサリの貝殻で92.7%でした。あとはトウモロコシの芯とか、いちごのヘタなども食べる人は少なかったですね。90%を超えていれば紛れもない生ごみということができます。誰もそれは食品ロスだから食べろとは言わない。ただ、50%くらいになってくるともう好みの問題とか、料理によって食べたり食べなかったりとか様々になります。食パンの耳は3.3%で、実は最も「食べられないものではない」「つまり食品ロスである」という回答が多かった品目です。普段から食パンの耳を食べている人がほとんどなので、わざわざ捨てる方がおかしいような感じがしますが、実はごみの実態調査をした時、ある地域で山ほどパンの耳が捨てられていることがあったんです。それもサンドイッチを作るために切り落としたような形ではなくて、おそらく高齢の方が固くて食べられずに残したものだと推測されました。それで研究者の中で議論をして、「食べにくいから除去している」というキャベツの芯などと同じ扱いにすることにしました。こういうケースを考えると、このサンドイッチ商品を作るために切り落とした食パンの耳を食用にしろ、と言われても毎日大量に出るのでメーカーは非常に困ります。そこでこのメーカーは食品ロスを減らすために何を考えたかというと、家畜の「耳ができない食パンの製法を考えよう」となってしまった。パンの耳は小麦ですから、餌の原料として非常に有効です。なのにこんなとてつもなく不合理なことをメーカーに強制することになってしまう。何の儲けにもならないし、誰も幸せになりません。ビジネス的に見ると、食品ロス削減がこうやって変な方向に走ってしまっている例が散見されます。
現実的に食品ロスを減らすには消費者意識の改革が必要
KL:確かに、そこまでして事業者に食品ロス削減を求めるのは強い違和感がありますね。すると、政府が推奨するように今後さらに食品ロスを減らしていくには、事業者よりも家庭の対策が重要になってくるのでしょうか?
岡山氏:その通りです。家庭の食品ロス削減のために、私が特に重要だと思っているのが、賞味期限と消費期限に関する正しい知識を広めることです。
そもそも、私たちが普段食べている食品でも賞味期限か、消費期限かを知らない方は非常に多くて、賞味期限と消費期限が混同されてしまっているケースも少なくありません。身近な食品で考えていくと、食パンは消費期限で、コンビニで売っているサンドイッチなども消費期限です。また、調理済みの焼きそば弁当などご飯類も消費期限ですし、スーパーで売っている肉類、魚介類なども消費期限です。ですが一方で、ハムやベーコンは賞味期限で、袋入りの焼きそばの麺とか、ちくわやはんぺんなど魚介類の加工品は賞味期限なんですよ。また、野菜や果物はどうかというと、そもそも何の期限もついていません。
それに、よく買ったまま捨てられていたりするものに納豆があるんですが、実は納豆って賞味期限なんです。発酵食品はもともと保存用に作られたもので、すごく長持ちするので、賞味期限は基本的に作りたての美味しさの保持期間であって消費期限ではないんですね。あと意外なものが生卵で、卵は生だと賞味期限になります。もちろん、茹でたりしたら早めに食べた方がいいんですが、生卵のまま保存していれば生きているので腐らないんですよ。私の個人的な実験の結果では、冷蔵していれば半年くらいは平気でした。しかも生卵の賞味期限は、私は産みたての美味しさで食べられる日にちかと思っていたんですが、実際は生で食べられる期限なんだそうです。それに、日本だと生卵の消費期限は大体2週間ですが、ヨーロッパでは1ヶ月くらいなので、賞味期限に関してはあまり過敏になり過ぎる必要はないんです。なお、もしもゆで卵にしてしまったら、卵は死んでいますので一両日中に食べるようにしてください。
KL:生卵がそんなにもつとは意外でした。私たち一般の消費者が賞味期限に対して抱いているイメージと実態とでは、かなり大きな差があるように感じます。
岡山氏:賞味期限は、一般的に本来の1/3くらいで設定されているといわれていますからね。
先ほどの納豆にしても、生卵にしても、賞味期限に関してはほとんどの場合、過ぎたとしても直ちに食べられなくなるわけではありません。例えば、乳酸菌飲料の賞味期限が切れたらどうなると思いますか。メーカーの回答では、1ミリグラムあたり4,000個入っていないといけない乳酸菌が確実に残っている期間が賞味期限ということでした。つまり賞味期限を切れたら乳酸菌の数が減っているかも、というだけで、飲めなくなるわけではないんですよ。
そのくらい、賞味期限がどういうものなのか詳しく知らないで食品を買っている方は珍しくないんです。しかも、多くの人は期限は捨てる日だと思っている。先ほどお話ししたように食品によって賞味期限か、消費期限かも変わってくるはずなのに、混同されていることが非常に多い。ベーコンやヨーグルトひとつ取っても、本当は賞味期限なのに消費期限だと思い込んでいて、期日が過ぎたらすぐに捨てられてしまっているケースがたくさんある。25品目の食品の廃棄理由を調べた中では、15品目はとにかく期限で捨てるという同様のパターンになっていたので、食品ロスを考えるとがこれが一番だめなんです。
KL:そうなると、賞味期限と消費期限の認識を周知するだけでも家庭から出る食品ロスの量はかなり大きく変わってきそうです。能登半島地震の時に賞味期限切れの食品が送られてきた、と話題になったこともありましたが、本当は問題なく食べられる食材もかなり多かった可能性も否めないんですね。
岡山氏:そうなんです。賞味期限切れイコール捨てる日、だと認識している人が多いことは、ごみの調査からも明らかです。なので、家庭の食品ロスを減らそうと思ったら、まずはここの認識を変えなければいけません。
私は以前、プレーンのヨーグルト400グラム、冷蔵庫の中に何年も保存しておいたことがあるんですよ。3年もの、4年もの、5年ものと作ってみたら、結果的には全部食べられました。4年くらい経つと中の水分が減って、カッテージチーズっぽくはなってくるんですが、やっぱり発酵食品ってすごく優秀で。納豆にしても、時間が経って食べられなくなるのは水分が抜けてカラカラになってしまうことが理由なので、腐敗するわけではないんです。あと、賞味期限内なのに捨てられているものとしてはお菓子が多いですね。買ってみて口に合わずに捨てているもの以外にも、職場で子どもにともらったお菓子をやむなく捨てているとか、ダイエットしているのに甘い物をもらってしまった、といったケースもあるようです。
こうした現状を鑑みると、事業者はすでにかなりの量の食品ロス削減を行っているので、これから力を入れていくなら家庭の食品ロス削減です。日本のカロリーベースの食糧自給率はたった38%しかありませんが、これは言い方を変えれば家畜の餌を自給できていないということです。もし輸入が止まってしまった時、私たちは今のカロリーの半分も摂れなくなるわけです。これほどの食糧危機に陥るリスクがある中でまずすべきことは、やはり私たち一人ひとりが食品ロスに関心を持ち、意識的に食品ロス削減に取り組んでいくことです。家庭の食品ロスはまだまだ手つかずな部分が多いので、今お話ししたような賞味期限と消費期限の認識から変えていかなければいけない。それに、買ってきて開封しないまま捨てたり、あるいは開封したウィンナーが数本残ってそのまま捨てたりしている、そういった食品ロス廃棄を減らしていくことも重要になります。消費期限にしても、肉や野菜などは1日過ぎたとかなら火を通せば十分食べられるものもあるので、私自身も臭いなどで判断しますが、皆さんも自分の五感できちんと判断して欲しいなと思います。
食品ロスに限らず日本の自給率の低さには改善の余地が大きい
KL:本当に、岡山先生の仰る通り危機感を持って取り組んでいかなければいけない課題ですね。最後に、ピンチはチャンスともいいますが、今食品ロスを取り巻く問題をビジネスチャンスとして捉えるとしたらどのようなアプローチが考えられるのか、アドバイスをいただけますか?
岡山氏:ベンチャー企業や起業家の方々にぜひ目を向けていただきたいのは、日本の食糧自給率の低さとともにエネルギー自給率の低さを補っていくような取り組みですね。
ベンチャー企業の中には食品ロスへのアプローチとして、減らすだけではなく加工とつなげようとしているところもあります。そうやってリサイクルの方にも目を向けられるような動きがあれば、まだまだビジネス面でもやれることはあるんじゃないかな、と感じていますし、皆さんには食品ロスをきっかけにして広くビジネスチャンスを模索していただきたいなと思います。
実は今年、個人的には呆れてしまうような法律ができまして。食糧供給困難事態対策法というんですが、すごく簡単にいうと「戦争などで日本に食糧が輸入できないような事態が発生した場合に、日本の全農地で直ちにサツマイモを作れ」というものなんです。リスクが予測される時にはとにかくカロリーの高いサツマイモを作れと、これって先の大戦時にやったことなんですが、いきなりサツマイモを作れと言われたって明日できるものではないじゃないですか。収穫できるのは半年後とかになるのに、比較的作りやすくてカロリーが高いから、というだけでサツマイモになっている。しかもサツマイモ農家に対してのものではなくて、花卉農家とかに対しても全部サツマイモなんです。
こんなことをするなら、日本に約400万ヘクタールある農地以外に、耕作放棄地になっているところが相当あるんだから、そこでサツマイモを作ればいいのにと思うんですよ。耕作放棄地は田んぼや畑として使っていないと2年で使えなくなるそうなので、とりあえず保全しておくという意味でも休耕田ではとにかくお米、畑ではサツマイモなどを作っておけばいいんです。これらはいずれもお酒になりますし、99.9%まで濃度を上げられればバイオエタノールになります。バイオエタノールはガソリンの代替として使うこともできますし、よく燃えるので発電燃料としても使えて、さらにプラスチックの原料にもなる。いざという時にはバイオエタノールにしなくても、お米やサツマイモのままでも食べられる。2035年にはガソリン車は生産終了となり、2050年には自動車はほぼ100%がEV(電気自動車)になるとされています。ですが、日本はEVを作ろうにもバッテリーとなるリチウムイオン電池のためのリチウムを買い負ける可能性が高い上に、エネルギー自給率11%ではEVのための発電も難しい。そもそもEVが推奨され始めたのは石油が2050年頃には枯渇するといわれているからなんですが、現状のEVでは寒冷地では動かせませんし、カーエアコンをつけるためにはものすごく大きな電池を搭載しなければいけないので、多分日本中でEVを走らせることは難しいんです。それなら完全EV車を目指すより、バイオエタノールをを100%使用するようなハイブリッド車を目指す方が現実的だと思うんですよ。
それこそ、今って畑一反を1年間貸してくれ、と言うとほんの数万円で貸してくれるので。今は田んぼも畑も、一反では1年間で3万円も収益が上がらない状態なんですが、食べ物だけでなく燃料も視野に入れれば事情は変わってきます。しかも今は農業の耕作地も水田も手つかずの土地が増えて、かなり危機的な状況にあるので、このあたりをなんとかしないと食品ロスどころか有事の際の食糧の自給が困難になったり、水害などの災害につながる可能性も高くなっている。だからこそ、食品ロスに関心を持っていただいたことをきっかけに、日本の食糧自給率とエネルギー自給率の逼迫した状況をビジネスチャンスに変えていって欲しいなと思っています。
もし、食品ロスや食糧自給率、エネルギー自給率を取り巻く問題にビジネスの機会を模索されている方がいたらご連絡ください。これらの問題には私も大変興味を持って取り組んでいるので、一緒に取り組んでいける方がいれば大変心強いです。