ギャンブル依存症にはパチンコよりも大きな要因が存在する

ギャンブル依存症にはパチンコよりも大きな要因が存在する

IR法案の成立によって、ギャンブル依存に注目が集まるようになってきました。

しかし、ギャンブル依存について取り上げられる際に話題に上がることが多いパチンコは、ギャンブル依存全体への影響がそれほど大きくないことはご存知でしょうか。ギャンブル依存の実態は、実は一般的なイメージからはかけ離れたところにあるのです。

そこで今回はギャンブル依存について社会心理学の立場から長年研究し、数々の調査結果も世に出されている都留文科大学の早野教授にお話を伺いました。

ギャンブル依存の判断は専門家でも難しい

クリックアンドペイ(以下KL):最初に、ギャンブル依存の概要についてお聞きしたいのですが、ギャンブル依存はいつ頃から現れた病気なのでしょうか?

早野氏:ギャンブル依存の症状自体は、ギャンブルができた時からあったと考えられます。どのような処罰を科してもなくならないのがギャンブルです。それで、ようやく1977年に世界保健機構(WHO)が病的賭博という精神疾患として認定しました。ギャンブル依存症は厚労省やマスコミが使う表現で、WHOは2018年からギャンブル障害と表現しています。

それまでは、依存症者は「懲りない人」として扱われていました。症状は同じでも、世間的にも許容される部分がありました。累計売り上げ80万枚の大ヒットした「スーダラ節」という歌謡曲があります。これは、いわゆるアルコール依存やギャンブル依存の歌です。最後は、「わかっちゃいるけどやめられねえ」と笑いに変えて、どこか憎めない愛すべき人物として表現されています。

『塀の中の懲りない面々』(安部譲二作)は、刑務所の中でも懲りずに犯罪を繰り返す人たちを描いた小説ですが、何度も過ちを繰り返してしまう懲りない犯罪者に対しても、「どこかユーモラスで憎めない人間群像」と出版社が解説していました。今でしたら、「早く病院に行け」「犯罪者を憎めないとは何事だ」となるでしょう。時代とともに、「懲りない人」の扱いも違っています。

厚労省は、ギャンブル依存症を「ギャンブルにのめり込んで日常生活や社会生活に支障をきたしている状態」と説明しています。また、ギャンブル依存の人に共通しているのが、「やめたくてもやめられない状況に陥っている」という点です。例えば、WHOが出している基準を見ると、生活や周囲との関係性に支障をきたしている状態が12ヶ月以上続いた場合がギャンブル依存に該当するとされています。

そして、「日常生活や社会生活に支障をきたしている状態」が定義になっているということは、逆に言えば、どんなにギャンブルをやっていても生活に支障がでなければ、ギャンブル依存とは判断されません。それに、年収1億円稼いでいる人がギャンブルに500万円使っても問題はありませんが、年収300万円の人が300万円つぎ込めば生活に支障をきたすのでギャンブル依存となります。実際のところ、ギャンブル依存かどうかの線引きは難しいのです。週に何日以上ギャンブルをやったらギャンブル依存とか、いくら以上使ったらギャンブル依存とか、そのような判断基準だけでないことは知っておく必要があります。

KL:ギャンブル依存にそのような定義があるとは知りませんでした。具体的に、ギャンブル依存かどうかを調べる方法はあるのでしょうか?

早野氏:ギャンブル依存の判断については、まずアメリカで開発された「SOGS(South Oaks Gambling Screen)」という簡易なスクリーニングテストがあります。SOGSは日本でもっとも使われている調査方法なんですが、これはアメリカのギャンブルを対象に開発されたもので、やや信頼性が疑問視されています。日本で行われた多くの大規模調査でSOGSが使われているため、私も比較のために用いますが、同時に、より因子構造がわかる「PGSI(Problem Gambling Severity Index)」なども併用しています。

SOGSは12点満点で、5点以上がギャンブル依存の疑いありと判定されます。「借りたお金をギャンブルで返せなくなる」「ギャンブルで負けたときも、勝っていると嘘をついたことがある」、などの項目がいずれも1点として扱われます。ただ、負けても勝ったと負け惜しみを言うことは普通にあることですから。それなのに、借りたお金をギャンブルで返せなくなるのも同じ点になってしまうので、ちょっと違うだろうと。そこで、PGSIでは状況も鑑みた上で点数の重さを決めるようにして、段階的に低リスク状態、中程度状態、となり27点満点中8点以上ならギャンブル依存の疑いありと判断されるのです。

KL:なるほど。すると、過去に厚生労働省科研費研究(厚労科研)でギャンブル依存症の人が国内に536万人いる、と発表したのもSOGSの結果だったのでしょうか。成人の20人に1人というのは、さすがに信じがたかったのですが・・・。

早野氏:それは、信じないでください。 536万人なんていう数字は、実際のものとは乖離しています。 その調査は、もっとも重要な過去12ヶ月という条件を入れていないのです。 いずれかのタイミングでSOGSが5点以上になったことがある場合も5点以上になるし、ある時期に2項目に該当し、他の時期に違う3項目に該当した場合も5点以上になりますが、その場合、5点以上の時期が一度もなくてもギャンブル依存疑いと判定されてしまいます。 すでに回復した人や計算上5点以上になった人の推計が536万人になっただけなのです。 しかも疑いのレベルです。 それが、センセーショナルに報道されてしまったものだから、成人の20人に1人がギャンブル依存のような認識が広まってしまった。 これって普通に考えれば、あり得ない数字です。 例えば、東京都で2023年2月1日時点での新型コロナ罹患者数は1,818人ですが、累積すると427 万 3,270 人になります。現時点と累積では、桁そのものが大きく異なるのです。

536万人と出した調査では、4.8%となっているので、実際、2016年の大都市調査では、ギャンブル依存(疑)と判断されたのは、993人中たったの5人だけでした。993人の4.8%なら約48人いるはずですが、5人しかいない。2017年に4,685人に行った調査でも、ギャンブル依存(疑)は32人でした。4,685人の4.8%なら約225人いるはずなのに実際には32人。世間はとんでもない調査結果に踊らされているのです。繰り返しますが、536万人なんていうのは、あり得ない数値です。

KL:国の調査結果だからといって、鵜呑みにしてはいけないのですね・・・。

早野氏:それにSOGSで5点以上になったとしてもギャンブル依存が疑われる程度のものです。体温が37度でコロナが疑われたのと同じです。日本でSOGSのカットオフ(境界線)を何点にすべきかという研究もありますが、だいたい7点から8点くらいが妥当という結果が出ています。

SOGSの統計としては0点が最も多く、8点以上は非常に少ない。それに5点以上になっても先ほどお話ししたように生活に支障をきたしているとは限りません。個人の状況に左右されるところが非常に大きいわけです。なので、本当のところは、ギャンブル依存が疑われる人数は、今までにSOGS5点以上になった人数よりはるかに少なくなると考えられます。

ギャンブル依存症にはストレスや承認欲求が関わっている

KL:なるほど。それでもギャンブル依存が疑われる方が数百万人以上もいるというのは、なかなか衝撃的なものがあります。

ギャンブル依存になってしまう原因としては、どのようなことが考えられるのでしょうか?

早野氏:気質、遺伝、環境、脳、心理面などが指摘されています。私は心理面からの研究を進めていますが、心理面での主な要因は、ストレスとか、承認欲求が満たされないことなどが考えられます。

そもそも、ギャンブルって今はオンラインギャンブル、競馬、パチンコなどのイメージが強くなっていますが、実は、それらをしない人もギャンブルをしているのです。例えば学校給食で牛乳が1本残った、おかずが残ったとしたら、じゃんけんをして分配することがあります。その時にやるじゃんけんは勝った人が得をするものですから、本質的にはギャンブルです。仲間内でじゃんけんをして誰がコンビニに行くか決める、というのもギャンブル。お金はみんなで出すとしても、じゃんけんで負けた人が労力を使うことになるわけですから。つまり、世界どこでもそうなんですが、ギャンブルは、日常生活に溶けこんでいるのです。

ではなぜ人はギャンブルをするのかというと、人間には、人の上に立ちたいとか、優越感を得たいという感情があるからです。じゃんけんだったら、勝っても偶然ではあるけれども、そこには勝ちという喜びがついてくる。法的にはお金が重要な要素になっていますが、ギャンブルの本質はお金に限定されるものではありません。私たちは子どもの頃からギャンブルに触れて育っています。トランプで勝って嬉しかった、なんて経験なら、皆さんも一度はあるんじゃないでしょうか。算数で使われるサイコロなどは、そもそもがギャンブルの道具です。

そしてじゃんけんに限らず、ギャンブルには一時的にしろ優越感と解放感が得られるので、ストレスがかかる中間管理職の人とか、学校の先生とか、嫌なことがあった時の逃げ場になっていることも多いのです。特に、自分が認められていないと感じたり、認められる機会が少ない人たちなどは、優越感を感じるためにパチンコをすることもあります。パチンコで当たると、自分は勝者だと感じることができますからね。ただ、ある報告ではひどいストレスがかかっている時にギャンブルをすると依存症状が進行する一方で、ストレス状況が改善すると依存状態も回復していくことがわかっています。こうした調査結果からも、ストレスや満たされない承認欲求がギャンブル依存と密接に関わっていることがわかります。

KL:ギャンブル依存は遺伝的な要素も大きい、という情報もよく目にしますが、遺伝による影響はどの程度あるのでしょうか?

早野氏:確かに、2889組の双生児を対象とした調査から、病的賭博の遺伝率が50から60%あると結論を導いた研究もあります。その論文も読みましたが、遺伝なのか環境なのかわからないようにも感じています。私は環境の要素が強いのではないかとも考えています。先行研究として、ギャンブル依存になりやすい人の特徴に関する様々な報告も行われていますが、そもそも親がギャンブル依存なら、最初から周囲よりもギャンブルが身近な環境で育つことになりますよね。だとしたらもっと様々な要因が複雑に絡み合ってくるので、親がギャンブル依存だからというだけで遺伝であると判断するのは難しいと思います。ギャンブルゲノムなどが見つかれば話は別ですが。

ただし、ギャンブル依存になっている人たちの幼少期について調べると、一定の割合でDVなどのネガティブな経験をしていることがわかっています。しかも、こういった心的状況を抱えている人を調べていくと、ギャンブル依存だけでなくアルコール依存など、ほかの依存症も抱えているケースが多いのです。この点からも、遺伝、環境などの要因に加えて、精神的なストレスなどが影響を与えていると考えるのが妥当でしょう。

ちなみに、「なぜギャンブルをするのか」、という調査をしたところ、パチンコや公営ギャンブルは小遣い稼ぎやストレス解消の回答が多い結果になりました。

世間的にはパチンコなんていらない、競馬なんていらない、という意見もあります。確かに言い分としてわかるのですが、調査結果からもわかるように、ギャンブルでしかストレスや満たされない承認欲求を解消できない人たちもいるのです。お酒やタバコもそうで、健康に害があったとしてもストレスから逃れるためには欠かせない、という人もいる。そう考えると、お酒もギャンブルも完全な悪と言い切るのは難しいのです。世の中には、そういうものを必要としている人たちもいますからね。傍観者が上から目線で非難しても解決できる問題ではないのです。ちなみに、私は酒もタバコもやりません。タバコなどは、吸うのは勝手だが、近くでは吸わないでくれとは思います。

KL:確かに、お酒を世の中からなくそうと思ってもかなり無理が出てきてしまいますよね。

ちなみに、表の中には宝くじも含まれていますが、宝くじもギャンブルの一種なのでしょうか?

早野氏:日本では、宝くじは長らくギャンブルの中に入れられてきませんでしたし、ギャンブルだと認識していない方もいるでしょう。ですが世界では、宝くじは危険なギャンブルと認識されています。

KL:えっ、そうなんですか?

早野氏:実際、久里浜医療センターが行った令和2年調査でも、「最もお金をつかったギャンブル等の種類は宝くじが最多」となっています。私の行った調査でも、宝くじがギャンブルの入り口となっていることが確認できました。宝くじの還元率は、かなり異常です。宝くじの還元率は45%。購入者には45%しか返していないのです。これだけだとピンとこないかもしれませんが、公営ギャンブルでも還元率は75%、パチンコでは還元率85%ですから。

しかも、宝くじは45%しか還元していないもっとも割に合わないギャンブルでありながら、ギャンブルであることを隠すために、宝くじは社会貢献につながるとか、イメージのいい俳優さんたちを起用して、ものすごく爽やかに演出しています。

それでみんな騙されて宝くじを買うわけです。私の4万人調査では、なんと、宝くじを5,000円買った時に、1億円以上当たることを期待する人が20%もいました。55%がピンハネされて行政の利益になるような仕組みの上、1億円以上当たる確率は1,000万分の1とか、2,000万分の1です。東京ドームがいっぱいになったところに数百回いって、その中で1人当たる計算になります。まず、当たるわけがないと考えた方がいい。だから国は宝くじを寄付として扱うんです。寄付ということはつまり、お金が返ってこない前提で買ってね、と暗に言っているようなものなのに、テレビでは8億円、10億円と煽っているなんて本当におかしな話です。だから、私は、宝くじに関する大量の調査データを取って、宝くじをギャンブル等依存対策の種目に入れてもらうよう努力してきました。

以前は、ギャンブル等依存対策では、パチンコだけがターゲットにされていました。私の行った4万人調査では、パチンコだけのギャンブル依存率(疑)は全体の17.7%でした。ちなみに、公営ギャンブルだけの依存率(疑)は全体の18.1%です。ある一つのギャンブルが要因とはいえないのが、現在のギャンブル実態なのです。特にオートレースに参加している人は、ほとんどが他のギャンブルにも参加しています。

そのような状況ですので、ギャンブルは、何がよくて何がわるいという問題ではなく、全体で対策する必要があるのです。この度、宝くじが入ったことでようやく全体で対策ができるようになりました。そうしたら、今度は違法のオンラインカジノ問題が出てきましたので、切りがありません。

KL:宝くじの実態がそんなことになっているとは、全く知りませんでした。しかしそうなると、なぜ宝くじではなく、ギャンブル依存で特別に問題となる要素もないパチンコだけが対策の的になっていたのでしょうか?

早野氏:一番の原因は、ギャンブル依存が政治的に利用されたことです。

実はIR法案が出てくるまで、ギャンブル依存(病的賭博)ということばは、一般には出てきていませんでした。日本にカジノを作るぞとなった時に、「カジノで病的賭博者が大量に出るのではないか」という議論が起こりました。国や地方自治体としては収益を増やすためにカジノを誘致したいので、ギャンブル依存の人なんて日本にはそんなにいない、と主張したかったんですが、536万人と実数よりもはるかに多い数字を公表してしまったことで取り返しがつかなくなった。そこで、「行政が仕切っている宝くじや公営ギャンブルは大丈夫だけど、民間のパチンコが問題なのだ」などと、とんちんかんなことを言い始めたわけです。

言ってしまえば、宝くじや公営ギャンブルは行政の一部なのです。売上の一部が国や市町村に落ちる仕組みになっているので、宝くじや公営ギャンブルがなくなると財政的に困る。公営ギャンブルなど、ネット参加者が増えて売り上げが急増したと報道されますが、参加者が増えればそれだけ依存者が増えるのに、そこにはまったく触れることがない。公営ギャンブルは国が運営しているので安心安全、なんて掲げていますが、それ以前にギャンブルと認めてすらいなかった宝くじがギャンブル依存の温床になっているのです。

ギャンブル依存症の治療には趣味や交友関係の構築が効果的

KL:宝くじは身近にもよく買っている人がいますが、ギャンブル依存になりやすいものだとは全く思いもしませんでした。

ということは、自分でも知らず知らずのうちにギャンブル依存になっている人もいそうですが、もし周りにギャンブル依存の人がいたらどのように接するべきなのでしょうか?

早野氏:宝くじは、他のギャンブルに比べてなりやすいわけではありませんが、参加者が群を抜いて多く、気軽に参加できることが問題なのです。そして、ギャンブル刺激によって他のギャンブルにも手を出していきます。そのギャンブル参加者のごく一部が依存状態になるのです。ギャンブル依存の治療を視野に入れて考えるなら、重要になるのは、できるだけ孤立させないことです。

実は、昔から都会ほどギャンブル依存になりやすいといわれてきましたが、実際に調べてみたら人口が少ないところほど依存状態になりやすかったのです。しかも各県の統計と照らし合わせてみると、レジャーの盛んな地域はギャンブル依存になりにくい、ということがわかりました。レジャーというのは、例えばカラオケであったりダンスであったり、キャンプや音楽鑑賞もそうで、端的に言えば趣味を持っている人たちはギャンブルにのめり込みにくい、ということです。逆に、他者との接触がなく孤独な人たちはギャンブルにのめり込みやすい。孤独だとどうしても刺激が欲しくなって、単純に刺激を得られるギャンブルに参加してしまう。先ほど見た表でも、ひまつぶしが一定数いるのがわかると思います。

なので、ギャンブル依存の予防には、何かに集中できる環境に身を置いてもらって、孤立させないことが重要になります。私が実施した全国調査では、娯楽が豊富な地域はギャンブル依存の回復率も高いことがわかりました。その一方で、人口の少ない地域では、娯楽を充実させたりする対策が必要になってきます。個人として対策を講じるなら、友人らと娯楽を行うと予防にも回復にもつながります。グループワーキングをするだけでもかなりいいと思います。安心感や信頼感を持てる人たちと一緒に行動するようになれば、改善につながるでしょう。友だちづきあいが苦手なら、何かに集中してもらう環境を作るのも効果的です。

ただし注意点として、ギャンブル依存の人は保身のために当たり前のように嘘をつくことがあげられます。

心療内科で「この人はギャンブル依存です」と診断されても、家族や友人は、対応が難しい部分が多いのです。言っていることが嘘か本当かがわからないから、周囲は苦労します。

今年、元通訳の水原氏が野球の大谷選手からお金を騙し取った事件が大騒ぎになりましたよね。あの事件で、水原氏は「自分はギャンブル依存症だ」と告白して、FBIの調査によってギャンブルの借金を大谷選手の口座から無断で送金していたことが明らかになりました。ただ、まだFBIが捜査している段階で、テレビのコメンテーターなんかが「最初に言ったこと(大谷が肩代わりしてくれたという内容)が本当だ」とか、「大谷選手が嘘をついている」とか、いろいろ言っていました。私は、マスコミから十件以上のインタビューを受けましたが、マスコミに対しては、ギャンブル依存なら嘘をついている可能性も高いから、捜査が終わるまで結論は保留にしなさいと言ってきました。結果を見るとやはり水原氏は嘘をついていた。

自分が大谷選手の口座に不正アクセスしていたにも関わらず、大谷選手本人に向かって「肩代わりしたことにしてほしい」と頼んでいたわけですからね。ギャンブル依存の人はそうやって嘘でギャンブルの失敗から逃れようとすることが多い。本当にギャンブル依存だとしたら嘘をつく可能性を考えて判断しなければいけない。逆にギャンブル依存でもないのにギャンブル依存だと言っていたとしたら、それ自体が嘘になるので、どちらで考えても嘘の可能性があるわけです。

厄介なのは、時々本当のことも言うことです。誰でも、めんどくさい時などに軽い嘘をつくことがあると思います。ですが、そうでないときはあまり嘘をつかないし、深刻な嘘もつかない。一方で、ギャンブル依存は深刻な嘘もつくので、本当か嘘かの見分けがつかないのです。嘘をついているだろうと全否定すればその人を孤立させるし、だからといってすべて受け入れることも難しい。家族のように日々接する立場の人からすると、非常に大きな負担になりますが、孤立させるとギャンブル依存はますます深刻になっていくので、ギャンブル依存の特徴を理解することがまず重要です。

KL:ギャンブルをしたことや、嘘をついたことを否定して正そうとするのではなく、何か趣味を持ってもらったり、交友関係を広げてもらう方が治療には有効なのですね。しかし、ギャンブル依存は、なかなか簡単には治らないイメージも強いのですが、ギャンブル依存に関しては特別な治療は必要ないのでしょうか?

早野氏:国はギャンブル依存はきちんと治療しないと治らない、といっていますが、実際には全体の80%は自然回復しています。私の調査ではSOGSで15点以上の高リスクの人でも、約70%は徐々に回復してきています。

ギャンブル依存になると脳が変化するから治らない、という人もいるんですが、海外の研究報告でも、変化するという報告もあれば、変化しないという報告もあり、よくわかりません。重度の患者には、脳の変化が見られるのはわかりますが、そもそもが、依存症の患者を調べているので、正常だったときのデータがないわけですから、比較のしようがないのです。つまり、もともとそのような脳の状態になりやすい人が依存症になっている可能性もあるわけです。また、ギャンブル依存の人はアルコール依存なども合併して患っているケースも多いので、脳の変化はギャンブルではなく、ほかの要因でなっているとも考えられます。正常な状態からギャンブル依存になっていくデータを取れればいいのですが、正常な人は病院には行きませんから。

東京都の保健所に寄せられた相談件数を見てみても、ギャンブル依存で相談に行く人は年間300件前後です。それに対してアルコール依存は年間5,000件。アルコール依存の6%にすぎません。そもそも依存症の種類には、物質依存と行動嗜癖にわけられて、ギャンブル依存は行動嗜癖に該当します。一方、アルコール依存や薬物依存などは物質依存で、物質が絡むだけあって行動嗜癖よりも重度の依存状態に陥ります。仮に薬物依存の場合、1回でもやると、それこそ脳に変化が起こります。お腹がすいて何か食べたいとか、運動した後に喉が渇いて水が飲みたいとか、そういう状況と同じように薬物を欲しがる。皆さんもよくご存知のように、薬物依存になってしまったら専門的な治療を長期間続けなければ絶対に回復はできません。しかし、ギャンブル依存はSOGSで5点以上だった人でも、特に何もしなくても80%が自然回復しています。それなのにギャンブル依存をアルコール依存や薬物依存と同じように扱ったらダメです。私の4年間の継続調査で、自然回復が見込めないのは、SOGS5点以上の人たちの4%から5%でした。ランダムサンプリング調査を行った2017年の久里浜医療センター調査が70万人と算出しているので、その4%であれば2.8万人ですから、何らかの支援が必要なのは、約3万人前後だと思われます。環境を変えたりして自然に治っていく人はそのままでいいし、今後はその3万人を支援するような体制をギャンブル業界全体で整えていくことが求められると思いますね。

KL:ギャンブル業界全体でギャンブル依存の方々を支援するというと、どういった取り組みが考えられるのでしょうか?

早野氏:私としてはギャンブル依存の人だけでなく、仕事に適合できずに普通のアルバイトもできずに悩んでいる人も含めて、そういう人たちを雇えるような社会環境を構築していくことがベストだと思います。

世の中には、働きたいと思っていても、コンビニのバイトなどでもミスが多くて対応できない人もいます。その場合、排除されたり責められたりして、お金を稼げる方法が限定されていってしまうことも多いのです。

生得的な要因だけでなく、生まれ育った環境などが影響して、どうしてもギャンブルにはまってしまう人が一定数出てきます。そのため、社会に適応しづらいけれどちゃんと自分の力で生きていきたい、そういう人たちを雇うような体制作りが必要だと考えています。実際に、いくつかの行政ではそういう人たちを雇い入れて喫茶店などをやっている例もありますからね。だから今後はギャンブル業界がひとつになって、まずは売上の何%かを支援や対策に回すなどして、施設や治療へのアシストを行う。たとえば、医師から治療が必要だと診断された場合は、半年間回復施設に入れる、また職業訓練を行う、などの流れを作っていく。その費用をギャンブル業界が出すわけです。それこそ、今、社会で求められている「責任あるギャンブル」といえるものです。宝くじも社会貢献を強調するなら、まずギャンブル依存者の支援にお金を回して欲しいと思っています。

私は講演会などで、宝くじは詐欺に近いと国会議員の前で言っています。公営ギャンブルはギャンブル依存に対してどのような対策をしているかというと、宣伝広告のほとんど読めないところに「のめり込みに注意しましょう」と書いてあるだけで、何もしていないようなものですからね。ただ、宝くじや公営ギャンブルは行政の財政にある程度関係しているので、劇的な変化は望めません。そこで、私たち研究者が科学的データを提示することで、少しずつ変わってくれることを期待しています。

そのために、まずは皆さんは、パチンコだけが悪い、宝くじは依存症にならないなどの偏見や思い込みをなくし、科学的データにもとづいた正しいギャンブル依存の知識を身につけていただきたいと願っています。そして、今後のギャンブルの扱いや、ギャンブル依存の人との向き合い方について、あらためて考えて頂けると幸いです。