現代社会において、SNSは欠かせないコミュニケーション手段となっています。
ですが、SNSは様々なトラブルや犯罪の温床ともなっているため、大人はもとより子どもに使わせるには不安が大きい、という方も少なくないでしょう。
そこで今回は文教大学の池辺教授に、子どもがSNSを使い始める一般的な時期や、SNSを使わせる際の注意点、親世代ができる対策についてお話を伺いました。
池辺 正典 / Masanori Ikebe
文教大学 情報学部 情報システム学科 教授
【プロフィール】
関西大学大学院総合情報学研究科博士後期課程を修了後、2007年から文教大学情報学部に着任、専任講師、准教授を経て現在は教授。SNSのトラブルを未然に防ぐための取り組みとして警察や行政と連携した様々な取り組みを行っている。2019年には代表を務める文教大学サイバー防犯ボランティアが安全安心なまちづくり関係功労者として内閣総理大臣表彰を受ける。
子どものSNS利用開始は中学生前後から爆発的に増える
クリックアンドペイ(以下KL):それでは初めに、子どものSNS利用率について教えていただけますか?
池辺氏:まず、前提としてインターネット使用率からお話ししていくと、こども家庭庁の統計によれば、インターネットの使用は大体0歳からスタートしています。
といっても、子ども自身が操作しているわけではなくて、最近は家庭でもリビングのテレビにGoogleやAmazonのネット端末なんかがありますよね。そういったものに物心つく前から触れているので、自然とネット利用が始まっているような形です。それから小学校入学時点までで8割くらいがネット利用をしていて、そのうち利用比率が高いのが動画視聴になっています。リビングに置いているテレビのネット端末でYouTubeなどの動画サイトを見ることができるので、子どもの日常生活の中にネットが当たり前にある環境になっている、ということですね。動画利用に次いで多いのは音楽を聴いたり、ゲームをしたりで、小学校入学時点で6~7割くらいです。そして、中学生になる12歳頃から急にネットの利用率が上がり、およそ99%に至ります。なので、子どもたちのネット利用に関してはまずゲームから始まって、メッセージ周りのSNS利用が始まってくるのかな、と。特にSNSは利用規約として13歳以上が要件になっていることも影響して、小学生の間はルール上はSNSを使うことはないということになります。
KL:年齢的に早い段階でSNS利用をする子どもたちが増えてきたことには、どういった理由が考えられるのでしょうか?
池辺氏:SNSの利用時期が早まってきたことには、子どもがスマートフォンを持つタイミングがいつかが影響しています。
最近は子どもが10歳になると親が専用端末を持たせることが多くて、9歳まで36%だったものが、10歳になると65%に跳ね上がります。小学校でもキッズ携帯からスマホへの切り替えが始まる時期ですし、家族共有のタブレット端末から自分専用の端末になっていくような形で、そこからSNS利用が始まっていく流れですね。
どのSNSを使うかについては、基本的にはどの世代でも目的でSNSを使い分けています。皆さんもなるべくリアルタイムで情報が欲しい場合はX(旧Twitter)を使うでしょうし、コミュニケーションの密度が重要になる時にはLINEや類似するアプリを使っていますよね。こうした使い分けは、子どもでも同様に行っているようです。
KL:ちなみに、なぜ10歳がスマホ所有の境目になっているのでしょうか?
池辺氏:大体どの小学校でも、小学校5年生、6年生の高学年になったタイミングでスマホなどの端末を持たせる機会が増えてくるんです。
塾や習い事に通い始めるタイミングとして高学年あたりが多いこともあって、都市部において子どもが1人で活動する機会が増えてくるのがちょうど高学年になった10歳頃なんですよね。そうなると、GPSなどで足取りのログが取れるようにしておかないと親としては不安ですし、連絡手段も持たせておきたいので、専用端末の必要性が出てくる。それに、周りの子どもたちもそういった必要性からスマホを持ち出すので、友達付き合いのためにも保有率が一気に増える、という側面もあるかもしれません。
SNSにはトラブルや犯罪のきっかけが数多く潜んでいる
KL:続いて、子どものSNS利用における危険性についても教えていただけますか?
池辺氏:SNS利用にあたってのトラブルにはいくつかパターンがあるんですが、発端になりやすいのは違法な情報や有害な情報です。
違法情報と定義されているものは、わいせつ関連情報、薬物関連情報、振り込め詐欺等関連情報、不正アクセス関連情報の4種類です。件数ベースで見ると年間で大体40万~60万件ほどが通報されており、そのうちの3~6万件程度が違法と認定されます。比率的には圧倒的にわいせつ関連情報が多くなってきています。
もうひとつの有害情報に関しては、重要犯罪密接関連情報と自殺誘引等情報の2種類です。重要犯罪密接関連情報については、最近よくテレビなどでも取り上げられている闇バイト周りの話で、売り子や出し子など、実行者募集も含まれます。SNSのトラブルは身内同士で起こるものもたくさんあるんですが、今挙げたものに関しては、知らない人との間に起きるトラブルになります。
特に注意すべきものとして、特殊詐欺の中でも受け子の5人に1人が10代の少年となります。さらに、そのうちの3割程度は中高生なので、こういった犯罪に関与する可能性が中学生くらいから出てくるというのが現状です。闇バイトの募集はX(旧Twitter)でもInstagramでも、SNSで検索するとすぐに出てくるため、十分に警戒しなければいけません。実際に連絡を取ると少しずつ個人情報を求められて、それを元に脅されて犯罪への加担を強要させられるようです。このため、事前に知識をつけてそういった募集を避けることが何よりも大切です。
KL:どのSNSで特にトラブルが起こりやすい、といった傾向はあるのでしょうか?
池辺氏:警察庁の方から数年前まで出していた統計だと、X(旧Twitter)が圧倒的に多いです。
この集計は母体がSNSに起因する被害児童の現状という、18歳未満を対象として、実際に被害に遭った2,000件程度が対象です。X(旧Twitter)の後にはInstagramが続きますが、X(旧Twitter)がシステム的に特に危険というよりも、単純に利用者が多いために被害も生まれやすい、といえる結果になっています。X(Twitter)の対応を見てみると、被害児童も多い一方でアカウント凍結率も各媒体の中で最も高いので、SNS側でも対策自体は行っているものの追いついていない、という状況でしょう。
KL:2024年には、北海道で女子高校生がSNS絡みのトラブルに巻き込まれた事件もありました。この事件では加害者に未成年も含まれていましたが、子どもたちが自ら犯罪を犯す立場にならないようにするには、どういった対処が必要なのでしょうか?
池辺氏:その事件に関しても、もともとはSNSで画像の無断使用があったことが発端だったので、ネットトラブル対応がしっかりしていれば回避できた可能性も0ではなかったかもしれません。
そう考えると、やはり子どもたちへのネットリテラシー教育を満遍なくケアすることが大事なのかな、と思います。全国で見ると、年間で1~2件はSNSに起因して殺人などの重大犯罪に発展するケースが見られます。大体のケースでは重大犯罪の前に誘拐関連も入ってくるんですが、出会いのきっかけは何だったかを見ていくとSNSであることが多い。しかも、もともとの書き込みについてもいきなり犯罪関連の内容だったわけではなくて、なにげない普通の会話とか、日常的なやり取りなんです。また、加害側という意味合いで見るなら、最も顕著に子どもが犯罪の主導者になっているのは特殊詐欺よりも児童ポルノ関連です。児童ポルノは当然、未成年も対象になりますが、子ども同士での児童ポルノの事案というものもたくさんあるので、被害者だけでなく明らかに加害側に回っているケースも数字として出てきています。
なので、繰り返しになりますがネットリテラシー教育をしっかり行って、トラブルに対する嗅覚を鍛えておくことが加害者・被害者両方を回避するための対策としては重要になるかなと。加えて、SNSのトラブルをきっかけに犯罪に巻き込まれるケースというのは、事件後に何らかの法改正が入るケースが多いんですね。なので、そういった法改正の情報をこまめに拾って、どんな事例が起こり得るのかという知識を身につけておき、子どもにも積極的に共有することがSNSトラブルから犯罪に巻き込まれることへの予防につながるでしょう。
子どもの安全なSNS利用にはシステム的な制約導入を推奨
KL:子どもたちにSNSを安全に使ってもらうためには、指導する側はどのようなことを心掛ければ良いでしょうか?
池辺氏:SNS利用にあたっては、年齢に応じた利用環境を整えてあげることが大切です。
最初にもお話しさせていただいたように、小学校低学年から4年生くらいまでと高学年、また小学校と中学校では利用度がかなり違ってきます。ということは、子どもが自分専用の端末を持っているかどうかで、トラブルの遭い方もそもそも変わってくるわけですよね。なので、各段階に合わせて親が一定の管理をしていくことが大切です。主なところではペアレンタルコントロールを活用したりして、リスクの判断ができない子どもたちを保護する。そして、年齢に応じた形でのリスク判断をするために、家庭でもネット教育をすることが必要になります。
それと現状、子どもにスマホを持たせた場合、親がトラブル予防のために取る対策としてはアナログなものが多めです。フィルタリングなんかは使っている家庭が増えていますが、どちらかというと、リビングでしか使ってはいけないとか、夜の利用は禁止とか、アナログ的なルールを設けることの方が比率としては大きいんですよ。ですが、ペアレンタルコントロールの管理機能を使えば対象年齢に合ったアプリしかインストールできないようにしたり、年齢などのレーティングに合わせた動画視聴制限も入れることができます。なので、そういったシステム的な管理も合わせて行うことが大切ですね。それこそ、システム的な制約を自然に導入しておくことで、子どもたちが「管理されている」と強く意識することなく端末を使えるような環境作りができているとベストだと思います。
ただし、ペアレンタルコントロールの管理ポリシーが違う友人間だと遊べなくなってしまうので、そのあたりは学校や地域で共通理解というか、ある程度の目安があるともっといいのかなと。そういう意味では、子どもがネット被害に遭うリスクを最小限に抑えるために、周りの大人が意識的に整備していくことが求められます。
子どもの知識レベルが上がっていることを踏まえた対応を
KL:貴重なお話、ありがとうございます。最後に読者の方へ向けてメッセージをお願いできますか?
池辺氏:最近は小学校でも授業でタブレット端末を使ったりするので、全生徒Googleアカウントを持っているような状態です。
そういう環境だと、最低限のネットリテラシーがないと逆に危ないので、どの学校でもネットリテラシー教育を導入するようになっています。ただ、学校でのネットリテラシー教育にだけ頼り過ぎることはおすすめしません。小学校でも高学年になってくると、YouTubeで配信をしている子どもたちがクラスに2~3人くらいいたりするんですよ。なので、実際に小学校に訪問してみても、先生や大人が聞かれても咄嗟に答えられないような質問も結構多いんです。今年、学生と一緒にある小学校に行った時には、高学年の小学生に「YouTubeを観ていたら有名Youtuberさんが有名な楽曲の歌詞を紹介していたんですが、著作権的にアウトかセーフか、どちらでしょうか?」という質問がきて。大人でもその場ですぐには答ることが難しい質問があったこともあります。YouTuberの話は企業系か個人系かでも変わりますし、ゲーム実況だとゲームタイトルによって会社のガイドラインは様々で、さらに楽曲は管理団体のポリシーもある。そういった、プラスの意味での知識レベルが高い子たちが増えているんです。
だからこそ、指導する側も知識を持って対応していかなければいけないんですが、このあたりに関しては、結構情報が不足しがちなエリアです。ペアレンタルコントロールにしても、言葉自体はよく聞くけれど実際どうしたらいいのかわからないとか、何ができるのか、どこに聞きに行けばいいかわからない、といった声もよく耳にします。今後拡充されていくとは思いますが、PTAなどで保護者向けに状況提供をしている場合もあるので、自分から積極的に情報を集めに行く必要があると思います。
総務省が毎年出している、インターネットトラブル事例集などはカテゴリー別にわけてあって参考になりますし、比較的情報量が充実しているところでは、東京都のこたエールというサイトがあります。こたエールはネットトラブルの相談窓口なんですが、カテゴリ別に相談事例を紹介しているんですね。先ほどの著作権周りでもトラブルに関する最新情報が入っていたりしますし、統計情報なんかも見ることができるので、どういった事案が多いかも確認できます。やはり、事例として紹介していかないと身近に感じないので、例えば子どもがスマホでゲームをしたいと言い出したら、課金トラブルの事例などを持ち出して話しておくなどして、早め早めの対応をしていきましょう。