めまいは場合によって重大なリスクが伴うこともあるため安易な放置は厳禁

めまいは場合によって重大なリスクが伴うこともあるため安易な放置は厳禁

めまいは日常的に誰にでも起こり得ますが、だからといって軽視していると、思わぬ重病につながる可能性もあります。

ビジネス、プライベート問わず充実した生活を送るためには、めまいの予防にどのような対策が必要なのかを知った上で対処しなければいけません。

そこで今回は、目白大学の角田玲子教授にめまいの仕組みや効果的な予防方法についてお話を伺いました。

めまいには様々な種類があるが、まずは耳鼻科を受診

KL:まず初めに、めまいの定義について教えていただけますか?

角田氏:めまいについては、国際学会であるバラニー学会が症状別に整理をしています。

これまでめまいの症状は患者さんも、診察している医師も、「ふわふわするめまい」とか「ぐるぐる回るめまい」、あるいは「回転性めまい」など様々な言い方をしていたんです。

それらをバラニー学会で整理しようとなりました。1つ目の定義が「自分が動いていないのに動いている感覚」です。例えば、ぐるぐる回る感じがする、揺れているような感じがするといった状態で、回転性と非回転性の感覚の両方が含まれます。2つ目の定義は動いている感覚ではなく、「自分と空間がずれている感覚」です。この状態は日本語に当てはまるものがあまりないので、浮動感と呼ぶこともありますね。3つ目の定義は、「見え方の症状」、例えば、頭を動かしたり歩いている時にしっかりものが見えない状態などがあります。4つ目として「歩いている時にふらふらしたり、身体が真っ直ぐ保てない状態」についてもめまいとして定義されます。

日本でも日本めまい平衡医学会が病名や診断基準を整理しているところです。病名に関してはこれからも変わる可能性があります。

KL:一口に「めまい」と言っても、様々な症状があるのですね。すると、めまいが起こる原因もひとつではないのでしょうか?

角田氏:そうですね。その質問にお答えするために考えていただきたいのは、めまいで病院に行くなら何科に行くのか、なんです。

私自身が耳鼻科なので、めまいで受診するなら耳鼻科が正解ということになるんですが、なぜかといえばめまいの一番の原因は耳にあるためです。めまいは正式名称を前庭症状といって、前庭は耳の一番奥、内耳の中にあります。この内耳には蝸牛という、カタツムリみたいな器官で音を感知している場所がありますが、それだけでなく内耳には三半規管と耳石器という身体のバランス、平衡感覚を感じたり、重力や身体の方向を感知する器官も存在します。三半規管と耳石器をまとめて前庭と言います。頭が前後左右に動く時の回転加速度や、垂直・水平の動きなどを前庭で感知しているんです。例えば、寝たり起きたり、寝返りを打った時や、エレベーターに乗って上下の動きがあった時などがそうで、先ほど挙げた前庭のおかげで、目をつむっていても自分の動いている方向や自分の頭がどちらを向いているのかがわかります。つまりは、内耳にある前庭という場所が身体のバランスを感知しているので、めまいは耳鼻科の領域になるわけです。前庭が悪くなると、「動いていないのに動いている感覚」が起きることが多いです。

そして、前庭からの情報は眼の方に伝わる経路と、身体の筋肉の方に伝わる経路があります。眼の方の経路が実感できる方法があります。文字を書いた紙を目の高さに持って、頭を振りながら読んでみてください。早めに振っても結構読めますよね。次に紙の方を同じ速さで振ってみてください。紙の方が動いてしまうと読みづらいですよね。なぜ頭の方を振っても読めるかというと、人間の身体は頭を振った分、眼が反対側に動くようにできているからで、人間の身体の中でも最も素早い反射といわれています。この仕組みが損傷されると頭を動かした時に物がぼやけて見えてしまうんです。先ほどの「見え方の症状」ですね。内耳からの入力が身体の筋肉に伝わる経路では、身体が動いたという情報が首や足腰に伝わって、身体が倒れないようにバランスを取ってくれていますので、ここが悪くなると4つ目の「歩行時のふらつきや身体が真っ直ぐ保てない状態」ということになります。また、自分が見ているものと自分の前庭の感覚にずれが生じて、混乱してめまいを感じることがあります。

いろいろな原因でめまいは起こるのですが、いちばん多いのは耳石に関係するめまいです。どなたでも起こす可能性があるので、寝たり起きたりした時にめまいがしたら耳鼻科を受診してみてください。また若い人にも多いのですが、片頭痛もよくめまいがします。頭痛持ちの方でしょっちゅうめまいがするという場合も、耳鼻科や頭痛専門外来をおすすめします。めまいは内耳に原因がある場合が多いのですが、危険な病気が原因の場合や慢性化することもあるので、早めに病院に行くことが大切です。

めまいはほかの病気と併発することがあるため注意が必要

KL:危険な病気が伴う場合や、慢性的な症状というのはどのように判断すれば良いのでしょうか?

角田氏:まず、急に起こった急性めまいなのか、ずっとある慢性めまいなのかにわけることが重要です。慢性めまいは3ヶ月以上続いている場合が該当します。さらに、急性めまいの中でも何回か繰り返しているものは反復性めまいとされます。単発性の急性めまい、つまり急に起こった初めてのめまいは、めまいを伴う突発性難聴や脳卒中などの可能性があるため注意しなければいけません。

そして、皆さんに覚えておいていただきたいのは、病院に行った時、医師に対してどのように説明するかです。患者さんに「何をしている時にめまいがありましたか」と状況を聞くと、「何もしていなかった」と言われることが多いんですよ。ですがそれは厳密には正しくなくて、座ってテレビを見ていたとか、寝そべってスマホをいじっていたとか、そういう何かしらの状況にあったはず。実はその状況によって、疑うべき病気がわかれてくるんです。例えば、座ってテレビを見ているならあまり頭は動かしませんが、寝そべってスマホをいじっている時はずっと同じ姿勢でいることは少ないし、寝そべるというのは三半規管にものすごく刺激が加わりやすい姿勢なので、頭を動かしたことによるめまいだろう、と推測できます。そうすると、耳石のめまいなどが疑われますね。

それから、次に皆さん自身でチェックしていただきたいことが随伴症状です。めまいがした時に、めまい以外の症状があったかどうかですね。一番確認しておきたいのが耳の聞こえの症状で、めまいがする前後に片方の耳の聞こえ方がおかしくなっていなかったか。前庭と蝸牛はくっついているので、耳の聞こえ方に影響が出る場合が多く、トンネルや高いところに行った時のような耳のつまった感じや耳鳴りがあると、診断にとても役立ちます。また、頭痛があったかどうかも重要です。若い人のめまいは片頭痛に伴って起こる前庭性片頭痛が多いです。片頭痛の方は大体小学校の高学年から中学校の初めくらいからズキンズキンと拍動するような頭痛持ちになって、それ以来ずっと頭が痛くなると頭痛薬を飲む生活を続けていたりするので、めまいがした時に頭痛があったかどうかあまり気にしていないことが多いんですよ。

しかし、いつもと違う頭痛や初めて経験するような激しい頭痛、例えば、頭が割れるような、斧で斬られたような痛みとか、右側や左側だけにバリバリと電気が走ったような激烈な痛みの場合は、脳の血管に異常が出た可能性が考えられます。また、意識が遠のいたり、左右どちらかの手足に麻痺が見られる、ろれつが回らなくなる、急にむせる、箸がうまく持てない、あるいは頭を動かさないで物を見た時にだぶって見える。こういう症状があった場合は脳幹や小脳の異常による症状なので、すぐに救急車を呼ぶようにしてください。30代くらいの若い人でも小脳出血や小脳梗塞とかは結構あるので、油断しないことが大切です。

一方で、吐き気や冷や汗、下痢などは自律神経症状なので、つらくはありますが脳の症状ほど心配はいりません。こういった場合は、とりあえずひと眠りすると大体落ち着くことが多いですね。

KL:なるほど。慢性めまいについては、どのようなものがあるのでしょうか?

角田氏:慢性めまいとしては、若い人にも多いのがPPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)です。内耳のめまい発作の後に、強いめまいの発作はないけれども、ずっと、毎日ふらふらが3ヶ月以上続いてしまう病気です。適切に身体を動かしていればふらつきは良くなってくるはずなのですが、まためまいがするんじゃないかと不安になってあまり動かないでいると、少し動いた時にぐらっときたりする。それが怖くなって動かないようにしていると、常にふらふらする感じがずっと続いてしまうというように、ふらつきに対して敏感になるという悪循環に陥ります。PPPD自体は昔からあるんですが、最近になって診断基準が決まったので、今後はさらにPPPDと診断される方が増えていくと思います。

仕事や学校など環境の変化による適応障害や、不安障害などの心因性のめまいもあります。急に冷や汗をかいたり、心臓がバクバクしたりするパニック発作をめまいとして感じる方もいる。これも不安障害の一種なんですが、そういったパニック発作の後に、「パニック発作とそれに伴うめまいがとても怖かった」と感じて、PPPDになってしまう方もいますね。

反復するめまいのうち、若い人に多いのは起立性低血圧やメニエール病です。起立性低血圧は、寝た状態からいきなり立ち上がった時にふらっとするとか、目の前が真っ暗になる病気ですね。あとは、電車の中で立っていたらだんだんと気分が悪くなって、倒れそうになって意識が飛んだとかのケースも該当します。立っている時は、頭に血がいくように血圧が保たれるようになっているんですが、それがうまくいかなくて、立った途端に血圧が下がってしまったり、長く立っているとだんだん血圧が下がってきてしまうことで起こります。大体しゃがんだり横になればよくなるんですが、しゃがむタイミングが遅いと失神して倒れてしまう場合もあるので注意が必要です。

メニエール病の方は、座ってご飯を食べているとか、座って話をしているなど、あまり頭を動かすようなことをしていないのに、急にめまいが起こり、めまいが10分以上続くような場合に当てはまる病気です。めまいのほかに難聴や耳鳴りなどの聞こえの症状を伴い、めまい発作を繰り返すのが特徴です。前庭性片頭痛と重なる方もいます。

生活習慣や日々の意識改善がめまいの予防につながる

KL:めまいは若い人にも多いのですね。全体的に、昔と比べてめまいの患者数は増加傾向にあるのでしょうか?

角田氏:そうですね。めまいの患者数が増えている理由としては、睡眠時間が短くなっていることと運動不足が考えられます。

前庭性片頭痛やメニエール病も、夜寝る時間が短くなっている人たちがなりやすいんですよ。若い患者さんの数の多い病気なので深掘りすると、前庭性片頭痛は片頭痛の治療を行い、メニエール病は内耳の水ぶくれを良くするための利尿剤などを処方します。ただ、治療のために最も大切なのは生活改善なんです。適切な睡眠、適度な運動、脱水対策。この3つですね。

睡眠については基本的には8時間以上、10代前半なら10時間くらいが目安になります。ただし、寝る前にブルーライトを見ると頭は夜だと思わないので、最低でも就寝1時間前からスマホやテレビ、パソコンは断って寝る準備をするのが理想です。それと、睡眠で重要なのが日によって起床時間がずれる場合です。起床時間が平日は朝7時なのに、休日は昼頃だったりすると、これはもう時差ボケと同じなんですよ。人間は大体1日1時間だったら時差ボケにならずに済むのですが、5時間の時差を解消しようとすると5日間くらいかかります。週末と平日の起床時間に大きなずれがあると、ずっと時差ボケが続くことになり、片頭痛もめまいもなかなかよくなりません。もちろん、夜がメインの生活で昼間に寝るようなお仕事をされている方もいると思いますが、継続して同じ時間帯に寝て起きているならそれはそれで問題ありません。いずれにせよ毎日8時間睡眠が取れて、毎日同じペースで生活できるようなビジネスモデルで働くことが第一ですね。そして、朝起きたら必ず太陽の光を浴びるようにしてください。家の中の光だけでは足りないので、カーテンを開けて窓から顔を出すとか、太陽を浴びることで朝だなというスイッチが入ります。そうやって睡眠のリズムを作っていかないと、夜眠れなくなってしまいますからね。

それから、週2回くらいは少し息が上がって汗ばむくらいの運動を習慣的に行いましょう。加えて、脱水症状になると頭が痛くなりますし、めまいもするので、家の中にいて別に喉が渇いていないような状況でもこまめな水分補給は大切です。そして、生活改善のためには、睡眠時間や運動、頭痛・めまいの有無の記録・ログをつけるようにすると成果につながりやすいと思います。

KL:ほかの様々な病気と同じく、生活習慣の改善によってめまいの症状は緩和・予防をしていけるのですね。今現在、めまいに悩んでいる方は、生活習慣改善のほかに取ることができる対策などはあるでしょうか?

角田氏:起立性低血圧については、起き上がる時に工夫することである程度緩和できます。

目が覚めてもいきなりがばっと起きたり、慌てて立ち上がるのではなく、布団の上で少しストレッチをしてみるとか、頭が一番最後になるように起き上がるとか。朝ご飯はできるだけ食べた方がいいですが、もし時間がないようなら、せめて味噌汁やスープなどの塩分の入った水分を摂ってください。また、起立性低血圧は満員電車で立っている時、車の運転の後に立ち上がる時によく起こるので、そうしたタイミングではかかとを上下させるなど、ふくらはぎの筋肉を刺激する運動をして、心臓への血液循環を良くしておくことも予防に効果的です。

また、めまいが仕事や生活に悪影響を及ぼしているなら、耳鼻科の中でもめまいの診療を専門にしている「めまい相談医」を受診してください。日本めまい平衡医学会のホームページからお近くのめまい相談医を検索できます。前庭性片頭痛やメニエール病の診断になれば、生活改善を目的に「残業の制限」などの診断書を出すこともできます。これは定時で仕事を終え、夜の睡眠時間をきちんと取れるようにして、生活リズムを整えるためですね。ですから、「たかがめまいで病院に行くなんて」とひとりだけで悩むのではなく、早め早めの受診で改善に向けて一歩踏み出してみてください。