ブーム再来中のビットコイン、基本的な仕組みと今後の展望とは

2024年には仮想通貨の保有人口は全世界で5億6200万人に達し、前年比で34%増加しました。仮想通貨は金融市場の波乱を乗り越えながら、その存在感を増し続けています。日本においても、新NISAが話題の今、株式投資だけでなく、ビットコインなどへの投資にも関心を持ち始めた方も多いでしょう。そこで今回は、ビットコインの基本的な知識や将来の展望について、広島経済大学教養教育部の高石哲弥教授にお話を伺いました。

そもそもビットコインとは?

クリックアンドペイ(以下KL)まず、ビットコインの基本について説明していただけますか?

高石氏:ビットコインは、2008年にサトシ・ナカモトと名乗る人物によって提案された暗号通貨です。2009年にはビットコインのネットワークシステムが稼働し、最初のビットコインが生成されています。その後、ビットコインの取引所も開設されビットコインが売買されるようになってゆきます。ビットコインの大きな特徴の一つは、中央管理機関が存在しないということです。これにより、第三者の介入なしに、直接送金や取引をすることが可能になりました。例えば銀行では、私たちが預けたお金は銀行のサーバーが管理しますが、それに該当する管理主体がビットコインにはありません。代わりに、取引記録のデータはユーザーにより分散管理されています。このような分散型のシステムを非中央集権的システムと呼びます。

KL:ビットコインのネットワーク参加者それぞれが管理者になるということでしょうか?

高石氏:その通りです。特定の個人や団体などの中央機関が管理していないのにシステムが機能しているということが、ビットコインの画期的な点であると言えるでしょう。ビットコインが非中央集権的に管理される主な仕組みとして、ブロックチェーンとプルーフ・オブ・ワークの二点が挙げられます。

まず、ブロックチェーンとは、ビットコインの取引が記載される分散型台帳です。ビットコインのシステム上には、世界中で行われている取引管理情報が次から次へとあがってきます。そして世界中の誰でも、その取引を承認して台帳に記録する作業に参加することができます。但し、この承認は、マイニングと呼ばれる計算作業により、特別な数字を見つけ出すことに成功した人だけが行うことができます。

KL:特別な数字ですか?

高石氏:はい。別名ナンス(number used once)ともいいます。ハッシュ関数にランダムにナンスを入力し、目標(ターゲット)とするハッシュ値よりも小さい値を持つハッシュを見つけるまで、宝くじのようにさまざまな数を試して大量の計算をし、何百万回、何億回と計算が繰り返されることもあります。その特別な数字、つまり正解のナンスを一番初めに見つけた人が、台帳に取引記録を記載することができます。これは一般的にはなせないほどの膨大な計算量になる為、ユーザーに自主的に参加してもらうためのインセンティブとして、正解のナンス最初に見つけ、取引を承認したユーザーにはビットコインが与えられます。ビットコイン報酬を受け取る目的で計算をするユーザーをマイナーと呼びます。また、ビットコインは計算量を利用して取引を正しいとするアルゴリズムによって、管理者がいなくても取引の不正が行われないようにしています。これをプルーフ・オブ・ワーク (Proof of Work)と呼びます。例えば改ざんを試みた人が取引記録を書き換えたとしましょう。その人は改ざんされたデータを承認するための膨大な計算を、一人で行わなければいけません。その間にも、世界中のユーザーによって正しい取引記録が大量に計算されます。先ほどの話を思い出していただきたいのですが、ターゲットハッシュを満たすナンスを見つけるまでには果てしない回数の計算が必要です。改ざんするためには正しい取引記録の計算量よりも多く計算する必要がありますが、そうすることは難しいので改ざんを実行するのは難しくなります。この計算作業こそが、ビットコインのセキュリティを担保する重要な要素となっているのです。

分散型システムのメリット・デメリット  

KL:非中央集権的な決済手段を実現するために作られたのがビットコインということになると思いますが、そのようなシステムの必要性はどのような経緯で生じたのでしょうか?

高石氏:ビットコインは個人間での送金が可能で、さらに決済手数料が低いというメリットがあります。従来のシステムを利用する際には、銀行や決済会社といった取引仲介者に手数料を払う必要がありましたが、ビットコインにおいては中央管理者が不在の為、それらのコストが安く済みます。国際送金においても、為替手数料や他国間の取引手数料が発生しないため、低コストでの取引が可能になります。

KL:低いとはいえ、決済手数料自体は発生するということですね。仲介者がいないとすると、その手数料は誰に支払われるのでしょうか?

高石氏:手数料はマイナー、つまり、正解のナンスを一番最初に見つけ、取引を承認したマイナーの取り分になります。それぞれの送金の手数料はユーザーが自由に設定できるので、低い手数料を設定することも可能、というわけです。ただし、現状このシステムにより、大きな問題が発生しています。高い手数料が設定された送金から先にマイナーに台帳(ブロックチェーン)に記録されるので、手数料の安い送金は手が付けられるのが遅くなってしまうのです。結局、早く取引を承認してほしければ高い手数料を設定する必要があります。 但し、現在は取引所を通しての取引が一般的で日本の取引所からビットコインを送金する場合は、無料の取引所もありますが、1回4000円~1万円程度掛かるようです。

KL:システムの構築当初の想定通りにはなっていない側面もあるということですね。他に問題点やデメリットはありますでしょうか?

高石氏:中央管理者がいないことによって発生するデメリットもあります。誤った送金の取り消しができない、マネーロンダリングの問題、などが挙げられますね。また、基本的にマイナーは誰でもなれるのですが、現状としては大きな会社が組織的にマイニングを行っており、個人単位でマイニングをして報酬をもらうのはは非常に難しいといえます。

ビットコインの価格変動に影響を与える要因

KL:ビットコインの価格変動に影響を与える要因はなんでしょうか?

高石氏:まず前提として、ビットコインの価値というのは、実は全く担保されたものではありません。様々な要素が複合的に絡み合い、価値が大きく変動していきます。

まず良い影響から説明しましょう。一つ目に挙げられるのは、ビットコインが有名になり参入人口が増えることです。ユーザーベースは着実に成長を続けており、彼らの信頼によって価値が支えられています。また、ビットコインの供給の制限も同様に価値の上昇につながります。マイニングによりビットコインは増えますが、実は全体供給上限量は2100万ビットコインと決まっています。また、マイニングの成功報酬は、最初は50ビットコインでしたが、半減期と呼ばれるシステムにより、四年ごとに報酬が半減していきます。最近では、2024年4月20日に半減期を迎え、報酬は3.125ビットコインとなっています。そして、2140年ごろに新規発行が停止すると考えられています。供給が無限ではないことにより、需要と供給の関係で価値が上がっていく可能性があります。また、イレギュラーなところでいうと、金融危機が起こった際に避難先としての需要が増加するケースもあります。具体的な例を挙げると、キプロス危機(2013年にキプロス共和国で発生した金融危機)においては、自国通貨に対する不信感から資産をビットコインに退避する動きがありました。これによりビットコインは上昇して、その後当時史上最高額の265ドルまで急騰しています。

KL:なるほど。では悪い影響としては何が挙げられるでしょうか?

高石氏:まず大きなところでは、規制です。規制が悪影響を与える要因としては、市場の予測が難しくなり投資家がリスクを回避しようと行動することや、マイニングへの規制などが挙げられます。例えば、昔は中国でもビットコインが使用されていましたが、現在では規制により、中国国内では取引が制限されています。マイニングが盛んであった中国での規制はセキュリティに対する懸念に繋がり、一時的にビットコインの価格が下落しました。また、ハッキング事件が起こると、ビットコインは危ないのではないかという印象を世間に与えることになり、結果市場への信頼に影響し、価格の下落要因になります。例えば、昔日本にマウントゴックスと呼ばれる世界最大級の取引場がありましたが、2014年にハッキングを受け470億円相当の被害を出し、信頼の低下から一時的にビットコインの価格が暴落する事件が起きました。他にも有名なところでは、コインチェックや最近ではDMM Bitcoinでハッキング事件がありましたよね、ご存じの方も多いかと思います。このような事件はビットコインのシステムそのものとは関係はなく、システム上のずさんな管理などによって起こりますが、ビットコインの印象には悪影響となりますので、結果価格の下落を招きます。

金融資産としての見通しは明るい一方、決済手段としては課題が残る

KL:今後もビットコインは成長を続けていくと思われますが、将来性についてはどのようにお考えですか?

高石氏:まず、ビットコインは今、金融資産的なものになってきているといえます。例えば、最近ではビットコインのETF(上場投資信託、Exchange-Traded Fund)の承認が進んできているようです。従来は取引場での売買が必要でしたが、上場したことにより、株と同じように簡単に取引ができるようになり、今まで暗号資産に興味がなかった人も気軽に参入できる土台が形成されつつあります。アメリカ、香港、タイ、オーストラリアなどでもETFが承認されてきていますので、投資により資金が流入し、ビットコインの価格も上昇する可能性があります。ただ、日本でビットコインのETFが承認されるというような話は、残念ながら今のところ出ていないようです。

KL:投資対象としてのビットコインは、今まで一部の人たちのみが売買していたが、ETFの承認などを皮切りに認知度が広がり、より多くの人にとって買いやすくなったということですね。今後より需要が上がっていくと見てもよいのでしょうか?

高石氏;そのように言えると思います。イーサリアムのETFも承認されており、今後は他の暗号資産のETFも承認される可能性があり、金融資産としての需要は高まってくると思われます。

KL:一方で、決済手段としての将来性についてはどうでしょうか?

高石氏:そちらに関しては難しいでしょう。一つには、価格の上下動が激しいため、日本円に換算した際の値段が読みにくいという理由が挙げられます。ビットコインでの決済が可能な店舗もなくはないですが、数はかなり限られるようです。また、決済速度も課題といえます。マイニングによりブロックチェーンに取引記録がかかれるのは、約5分から10分に一回ほどです。決済が完了するまでの速度としては少し遅いですよね。この速度を上げるようなシステム(ライトニングネットワーク)を開発しようという話も出ているようですが、現時点ではまだ多くは実装されていません。ほかには、既に説明したように、手数料が上がっていることも決済手段の利便性としてはマイナス点です。これらの理由から、少なくとも現時点では、気軽に決済に使用するのは難しいと言わざるを得ません。ビットコインは、もっぱら金融資産として利用されていくだろうというのがわたしの見通しです。

また、通貨という観点でいうと、ビットコインを自国の法定通貨として定めている国があります。エルサルバドルと中央アフリカです。特にエルサルバドルはビットコインを法定通貨として認めた世界初の国で、2021年に法律が制定されました。背景としては色々な社会的及び経済的な理由があったようですが、もともと米ドルを法定通貨として使用していたという点が大きいでしょう。ビットコインを法定通貨化することで、通貨政策における主権を強化し、他国からの影響を減少させることができます。例えばアメリカは、自国の通貨、つまりドルが強いからこそ政治的に強い立場に立つことができ、経済制裁なども可能になりますが、ビットコインの導入によりこのような強い外貨の影響が受けにくくなる可能性があります。今後も、自国の通貨に信頼性が置けない場合には、法定通貨として導入するケースが増える可能性もあります。ただし、現時点では二か国しか実施している国がなくデータが不足している上、価格の変動の大きさや技術的インフラの整備といった懸念点もあるため、政策として成功するかどうかの予測は、現時点では難しいでしょう。

参考:Global Crypto Ownership Reaches 562 Million People in 2024: New Report – Triple-A