NPOという言葉はよく耳にしますが、実際には「ボランティア団体?」「利益を出してはいけないの?」といった誤解も少なくありません。
近年、社会課題が複雑化するなかで、NPOは行政や企業では届きにくい領域に手を伸ばす重要な存在として注目を集めています。
本記事では、大阪商業大学の中嶋貴子准教授に、NPOの基本的な定義から、営利企業との違い、活動を支えるお金の話、そして今後の可能性について詳しくお話を伺いました。

中嶋 貴子 / Takako Nakajima
大阪商業大学 公共学部 准教授
【プロフィール】
博士(国際公共政策・大阪大学)。専門は非営利組織論、地域経営論など。在住外国人相談員を経て大学院に進学以来、NPOや市民社会の経営課題を研究。(一社)関西経済同友会、日本学術振興会特別研究員を経て2017年より現職。近著に『日本のコレクティブ・インパクト』(2022)分担執筆、Nakajima, T. (2021) “Disaster relief funding by private grants and POs” J DRなど。日本NPO学会理事、大阪商業大学共同参画研究所研究員、駒澤大学現代応用経済学ラボラトリ研究員。
NPOとは何か? その定義と役割
クリックアンドペイ(以下KL):まず初めに、そもそもNPOとはどういったものなのか教えていただけますか?
中嶋氏:NPOというのは「Non-Profit Organization(非営利組織)」の略称で、頭文字を取ってNPOと呼ばれています。
このNPOという言葉には学術的にいくつか定義がありますが、まず第一に「組織であること」が前提となります。つまり、単独のボランティア活動や個人の活動ではなく、組織として構成されている必要があります。
身近な例で言えば、ボランティア活動グループやサークル活動のようなものが該当します。その中でも、特に「ノンプロフィット」とあるように、営利を目的としない活動であることが、主要な要件です。
KL:サークル活動も含まれるのですね。非営利ということですが、「公益法人」とはまた異なる区分になるのでしょうか?
中嶋氏:まず「公益」の定義についてですが、「公の利益」と書く通り、社会全体、すべての人々に対して利益が及ぶような活動を指します。
たとえば「公益財団法人」という場合、財団ですので、資金をもとに設立された団体であり、非営利活動の中でも特に公益的な活動を行う団体として認可されたものです。
公益法人も非営利活動を行うNPOの中の一つの形態です。なお、公益法人以外にも、日本では、非営利法人のうち「公益性」が認められる活動や団体には、税制上の優遇措置が適用されます。
このように、NPOの中でも特に公益性の高い活動に取り組む団体は、法的に区分けされており、税制上の優遇を受けることができるという点が特徴です。
KL:NPOと一口に言っても、公益性の高さによって法的な区分が異なるのですね。
NPOの「非営利」とは?誤解されがちな収益の仕組み
KL:NPO分野において、特に難しいと感じる点について教えていただけますか?
中嶋氏:まず、「ノンプロフィット」という言葉が示すように、NPOは営利活動のみを目的としない団体であるという点が大前提になります。これは「儲けてはいけない」という意味ではありません。
よくある誤解として、NPOの職員は給与をもらってはいけない、黒字になってはいけないといったイメージを持たれることがありますが、それは正しくありません。商品やサービスを提供して対価を得た結果として利益が出た場合、その利益は次の非営利活動に使用することになります。
KL:私もそのようなイメージを持っていました。次の非営利活動につなげるのであれば、儲けてもいいのですね。
中嶋氏:はい。ただ、営利企業であれば、利益が出ればボーナスとして社員に還元したり、株主に配当を出すことができますが、NPOの場合はそうした利益の分配はできません。これを「利潤の非分配制約」と呼びます。この点が営利活動との大きな違いの一つです。
他方で、NPOも企業と同様に、計画的に活動を行う必要があります。また、こうした考え方を理解した上でスタッフや理事、取引先、あるいはサービスを受ける受益者にも参加・協力してもらうことが重要です。
KL:NPOは得た利益を次の活動に使うという話でしたが、会計担当者は、一般企業と同じスキルを求められるのでしょうか? それとも、NPO特有の知識が必要になるのでしょうか?
中嶋氏:まず、NPOも組織ですので、事業規模が大きくなれば各部門の専門スタッフを配置する余力が出てきます。また、法人であれば、それぞれの法によって活動にかかるルールが定められているため、そのルールに従って運営しなければいけません。
例えば、特定非営利活動促進法によって認証される「特定非営利活動法人」は、「NPO法人」のことですが、皆さんも耳にしたことがあると思います。市民活動を法人化し、行政が「認証」した団体として活動できるようになります。認証された法人である以上、法律、つまり「特定非営利活動促進法」に基づいて活動を行わなければなりません。
会計についても、きちんと規定があり、それに従って帳簿を付けたり、資金の出し入れを行ったりする必要があります。こうしたことができなければ、法人を立ち上げて活動することは難しいのです。
KL:営利企業とは適用される法律が異なるのですね。
中嶋氏:はい、法人として登記をすることが義務付けられているなど共通する点もありますが、市民が自発的に活動するボランティア組織などでも、何をどれだけ使ったのかという数字をきちんと記録し、関係者に報告することが求められます。NPO法人の会計であれば、一年間の収支を説明する「活動計算書」や資産の保有状況を説明する「貸借対照表」といった書類を作成し、資金の動きを明らかにしなければいけません。
加えて、法人ごとに定められた資金管理のルールもありますから、それに則って処理をしていくことが求められます。初めての団体運営でも、会計担当者だけでなく、組織の代表者や理事も、勉強しながら対応していくことが必要です。
KL:営利企業とは求められる知識・スキルが大きく異なりそうです。
中嶋氏:その通りで、組織が大きくなれば、会計に精通した専門家が担当することもあります。公益法人では、さらに特殊な会計が求められるため、企業での就業経験や税理士でも専門的な勉強が必要になるような場合もあります。
ただ、そういった専門知識が不足している場合でも、中間支援組織と呼ばれるNPOの活動を支援する団体やサポートセンターが各地にあります。無料相談を受けられるところもあります。行政が提供している市民活動支援センターなどを活用するのも一つの方法です。また、組織が大きくなった場合には、会計士や税理士に監査を依頼することも検討できるでしょう。専門家がボランティアとして専門知識を提供してくれる「プロボノ」やNPO向けのITサービスもあります。
KL:無料相談できるのは、NPO活動をしていく中で非常に心強いですね。
NPOは“セカンドワーク”にもなる――社会課題と個人の参加がつながる時代へ
KL:今後の日本のNPOが直面するであろう課題や、発展のために必要なことについて教えていただけますでしょうか?
中嶋氏:NPOに関しては、手続きなどが難しそうだと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、法律でその活動が認められているということは、その活動そのものが国において重要であると認められており、行政が支援し、監督すべき存在になります。
NPO法ができた背景には、阪神淡路大震災の支援活動において、地域住民やボランティアによる草の根の支援活動が注目されたことがあります。日本には古くから住民間の支え合いや相互扶助の文化がありますし、「日本人は寄付をあまりしない」と言われがちですが、宗教活動や地域活動などに対し、実際には多くの寄付がなされていたことが歴史的な資料にも残っています。
現代社会には、行政だけでは対応しきれないさまざまな課題があります。SDGsなど世界的な動きもありますが、その中で行政、営利企業、NPO、NGO、各国政府がボーダレスに活動しているのは、こうした課題がローカルでありながら同時にグローバルな問題でもあるからです。
KL:たしかに、現代の日本社会が抱えている問題は、世界にも通じそうです。
中嶋氏:ですので、非常に小さな地域の活動であっても、思いを持った人々が組織を作り、活動していくことには社会的な意義があります。そして、NPOの利点は、参加や退会が自由であることです。
もちろん、組織であれば雇用契約を結んだり、ボランティアであっても一定の責任が伴いますが、それぞれが自分のペースで、楽しみながら社会的責任を果たすことができるのがNPOの良さだと思います。
KL:NPO一本で活動しなければいけないというわけではなく、柔軟な関わり方が認められているのですね。
中嶋氏:最近では、本業を持ちながらセカンドワークとしてNPOに関わる方も増えてきました。新しい視点の提供や社会課題の解決におけるコラボレーションやイノベーションの起爆剤にもなり得ます。
これからの発展要素としては、NPOがどのようにして活動資源を確保し、継続していくかが大きな課題になると思います。寄付についても触れましたが、社会にとって良いことをしているからといって自然にお金が集まるわけではありません。寄付などの資金を調達することを「ファンドレイジング」と呼びますが、社会の問題に対する発見や知識を普及させたり、自分たちの存在意義を説明できる報告や情報発信も必要になります
KL:今のお話を聞いて、NPOの団体やNPOに参加される方は増加傾向にあるのかなと感じました。ただ、少子高齢化が進み、若者の数が減っていく状況の中でも、NPOの活動は発展していくのでしょうか?
中嶋氏:そうですね、参加の仕方によるかなと思います。若年層が過去数十年でどれほどNPOセクターに参加しているかという具体的なデータは手元にありませんが、法人単体で見た場合、少子高齢化を踏まえて今後を考えることは非常に重要です。
先ほども申したように、NPO法人の多くは阪神淡路大震災を契機に立ち上がっています。阪神淡路震災から今年で30年目を迎えましたが、当時30~40代だったリーダーたちは今では70~80歳になっています。データ上でもNPO法人のリーダーの高齢化が進んでいるのは確かです。次世代のリーダーや人材を育て、NPO法人を維持していくための若年層の参加の確保は、大きな課題の一つとして挙げられます。
ただし、日本には非常に多くの非営利組織や非営利法人が存在します。私の勤務している大阪商業大学を運営する学校法人も非営利組織ですし、医療法人や社会福祉法人も同様です。広い意味でのNPOは多種多様に存在し、そういったセクターで働く方々を含めて見ると、必ずしも若年層の割合が減っているとは言えないかもしれません。
KL:たしかに、学校法人や医療法人の就業者は少子高齢化が進んでいるイメージはありません。個人に注目した場合、若者のNPOへの関心は高まっているのでしょうか?
中嶋氏:社会的な活動に対しては、Z世代やミレニアル世代など、若者が新しい視点やムーブメントを生み出す動きが見られます。特に、SDGsや公共に関する社会教育が小学校や中学校、高校、大学でも広まっており、若者が社会問題への意識を持つ機会が増えています。
今は、そうした若者たちが地域活動や学校内での活動などを少しずつ学内外で実践していく段階にあると思います。そうした若者の活動を、大人がどう支えていける社会を作っていくかということが、私たちの課題ではないかと考えています。
「まずは一歩踏み出してみて」——NPOは意外と身近な存在
KL:今後NPOの立ち上げを検討している、もしくは迷っている方へのアドバイスをいただけますでしょうか?
中嶋氏:運営上のルールなど厄介だと思うこともあるかもしれませんが、まずは「やってみたい」と思った方は、一人でも構いませんので、身近な団体を探して訪問してみたり、イベントに参加してみたりするなど、気軽に参加から始めていただければと思います。
NPOは、日本だけでもさまざまな活動形態があります。また、実際に自分が活動しなくても、そういった団体を応援するために寄付をしたり、会員になって一緒に活動を考えたり、あるいは組織の理事や監事として運営を支えるといった参加の仕方もあります。
身近な例でいえば、PTAに参加している保護者の方々も、すでにNPO的な活動をしていると言えます。地域活動に参加している方々もそうですね。たとえば自治会やマンションの管理組合も、自分たちの生活や地域について考えていく組織です。そういった場に、自分の経験や知見を生かせる機会はたくさんあります。
KL:PTAやサークル活動もNPOの一つだというのは、今回初めて知りました。
中嶋氏:はい、堅苦しいものではないのです。そのため、まずは楽しんで、そういった場に気軽に参加していただければと思います。参加してみると、自分と似た価値観を持っている方や、同じ問題意識を持っている方々と出会うことができます。そういったつながりの中で、新しい世界が見えたり、新たなネットワークが生まれたりして、地域での生活もより楽しいものになると思います。ぜひ、楽しみながら一歩を踏み出していただけたらと思います。
KL:思っていたよりもNPOが身近な存在なのだなと感じることができました。実際、日本にはどのくらいのNPOがあるのでしょうか?
中嶋氏:全国にあるNPO法人の数は5万ほどです。毎年データを確認していますが、実はコンビニエンスストアと同じくらいの数があります。
もちろん、東京などの大都市に数は集中する傾向がありますが、それでも今言ってくださったように、NPOは私たちにとってとても身近な存在です。NPO法人だけでこれだけの数がありますし、PTAや自治会や町内会なども含めると、もっと多くの市民活動団体が身の回りに存在しています。そういった感覚で触れていただければ、より親しみやすくなるのではないかと思います。