不動産投資信託「J-REIT」は現金で定期収入を得たい時に使える選択肢のひとつ

不動産投資信託「J-REIT」は現金で定期収入を得たい時に使える選択肢のひとつ

投資で資産形成を考えている方の中には、不動産投資信託「J-REIT」を検討している方もいるのではないでしょうか。

しかしJ-REITは株式投資やFXなどに比べて情報が少なく、特徴や注意点が掴みづらい投資方法です。

そこで今回は中京大学の小林教授に、J-REITの特徴から効果的な運用方法、運用にあたって気をつけるべきポイントまでお話を伺いました。

J-REITは利益をキャッシュ(現金)で受け取れることが特徴的

クリックアンドペイ(以下KL):それでは初めに、J-REITとは何か教えていただけますか?

小林氏:J-REITは、日本語に訳すと日本版不動産投資信託になります。

一般的に知られる投資信託は投資対象が株式や債券ですが、J-REITは投資対象が不動産であることが特徴です。例えばオフィスビルや商業施設、賃貸マンションなどですね。制度としては、J-REITは不動産投資法人という、いわゆる企業の株を買っているのと同じような状態で、その企業に法人税がかからないような設計がなされています。

KL:投資というと、株式投資や投資信託をイメージする方も多いかと思うのですが、J-REITならではの特徴はどのような点にあるのでしょうか?

小林氏:J-REITの最大の特徴は、利益の大半が配当として支払われることです。

普通の株式では、企業は利益の大部分を再投資に回したりしているんですが、J-REITは基本的に利益のほとんどを配当にあてています。つまり、一般的な株式に比べると配当が多い投資対象になるわけです。そのため、投資のリターンをできるだけ現金で受け取りたい、という方に向いた投資方法になっています。

また、J-REITが生まれたきっかけには2000年頃のバブル崩壊後、不動産業界に個人投資家のお金を呼び込みたかった、という面が関係しているので、少額からでも取引を始めやすいことも特徴といえます。投資対象としてのオフィスビルのような不動産は非常に高額で、個人投資家ではとても買えない、投資対象にならないことがほとんどです。ですが、J-REITなら一口数万円から数十万円で取引できるので、個人投資家でも手が出しやすいでしょう。

KL:不動産というジャンルでありながら少額からの取引が可能なのは、一度に大きな金額が用意しづらい方にとっても嬉しいポイントですね。

小林氏:そうですね。それに、J-REITはリアルで不動産を購入する場合と違って、必ずしも長期保有を見据える必要がない、というメリットもあります。

もちろん、念入りに下調べをしたなら長期保有を前提に購入しても問題はないのですが、数年で売ってしまっても特に大きなデメリットはないんです。逆にリアルの不動産だとテナント退去などがなかなか難しく、簡単には手放すことができません。その点、J-REITなら株式のように短期で売却しても構いません。好きな時に買って売れる、というのはJ-REITの強みといえます。

J-REITの運用にはリスクがあるためデメリットの理解が大切

KL:初心者がJ-REITで取引を始めるとなった場合には、どれくらいの金額から始めるのがおすすめでしょうか?

小林氏:一口なら、先ほどもお話ししたように数万円から数十万円で取引可能です。とはいえ、分散投資をしたい場合にはたくさんの銘柄を買わなければいけないので、それなりにお金はかかります。合計すると、数百万円くらいはあった方が安定した運用が期待できますね。それだけの資金がない方は、J-REITに投資する投資信託もありますので検討するといいでしょう。

ただし正直なところ、東証J-REIT指数とTOPIXの伸び具合は、J-REIT創設以来20年ほど経過した時点ではそれほど大きく変わりません。収益性のみを比べるなら、リスクとリターンは株式投資等とあまり差がない、ということになります。

KL:すると、J-REITのみで大きく稼ごう、といった運用方法にはあまり向いていないのでしょうか?

小林氏:そうですね。実のところJ-REITには、値動きの不安定さというデメリットも存在します。

不動産投資と聞くと、株式投資に比べて安定しているイメージがあるかもしれませんが、過去の傾向からは値動きが安定しているとは言いがたいところがあります。理由としては、まず投資信託は投資家から集めたお金をそのまま株式投資にあてますが、J-REITはそれ以外にも集めたお金で借り入れをして、いわゆるレバレッジをかけて投資しているんです。大体、投資家から集めたお金の倍くらいの金額で投資をしているんですが、レバレッジをかけているということは利益が高くなりやすい反面、その分だけリスクも大きくなるわけですね。実際、サブプライムショックの時の下げ幅は日経平均やTOPIXと同等かそれ以上の値下がりをしていたので、不動産投資だからリスクが少ない、とは言い切れません。

KL:なるほど。そうなると、投資信託などとの併用を前提に、分散投資のひとつとして考えていくことが現実的でしょうか?

小林氏:その通りです。基本的には、J-REITに資金全てをつぎ込むのではなく、ポートフォリオに組み込んでの運用が現実的な選択肢のひとつになると思います。

それこそ、FIREを目指していて1億円くらいお金を貯めたい、といった場合は、J-REITの収益率は株式とさほど変わらないので、投資対象の一部としてJ-REITを活用するのはありですね。ただし注意点として、NISAなどを活用する場合、J-REITだと利益がキャッシュで分配されてしまうので非課税枠の有効活用という点ではやや難があります。運用にあたって不利になるという点には注意が必要です。効率的に資産形成を行っていくには利益の再投資が理想ですが、J-REITでは複利効果が得にくくなります。もちろん、キャッシュで得た利益を自分で再投資に回していくことは可能ですが、ほかの投資方法に比べるとひと手間増えてしまいますし、J-REITのウェイトを重くしすぎるのはあまりおすすめできないかな、と思うところがあります。そういう意味では、個別に銘柄を買ってポートフォリオを組むよりも、投資信託やETFでまとめてあった方が手間がかからない、という考え方もできるので難しいところです。

資産形成後の定期的な現金収入が欲しい場合に向いている

KL:J-REITは、なかなか運用に特徴がある投資対象になっているのですね。収益がキャッシュで分配される、という強みを活かすような運用方法としては、どのようなものが考えられるのでしょうか?

小林氏:そもそもの前提として、J-REITは市場規模としてすごく大きいか、といわれるとそうでもないんです。なのでJ-REITが活きるのは、もともとJ-REITに興味があったり、活用したいという意図があって投資したい場合になります。

具体的には、ある程度の資産ができた後に、さらに現金収入を得る手段として選択することはJ-REITの強みを活かした運用方法といえるでしょう。例えば、FIREした後に定期的な現金収入を得たい場合であったり、年配の方が年金のように定期的な収入を得たいといったケースでは、J-REITが適しています。J-REITはほとんどの銘柄で年2回の配当があって、銘柄によって受け取れる月が違うんです。なので、うまく組み合わせれば毎月配当をもらえるように調整することができます。

ただ、利回りでいくと4〜5%ほどが一般的なので、100万円投資したら年間5万円前後になるイメージになります。なので、ある程度大きな金額を投じていなければ、J-REITだけで毎月の生活費をまかなうことは難しい、ということは覚えておくべきだと思います。

KL:確かに、FIREしたケースは別として、老後資金としてJ-REITの活用を検討するなら慎重にならなければリスクが高くなってしまいますね。ですが、キャッシュで欲しい場面を想像するといろいろな使い方が想定できて、活用の幅が広がりそうです。

小林氏:はい。あとは、特定の地域に関する知見をお持ちの方が、地域特化型のJ-REITに投資することはひとつの考え方になるでしょう。

J-REITには福岡周辺とか関西といったように、特定の地域に重点的に投資する銘柄があるので、例えば福岡などに目をつけて「この地域の不動産は有望だ」と判断できる知識をお持ちなら、有望な選択肢になると思います。それに、J-REITはコロナ禍によるオフィス需要の減少であるとか、不動産関係で大きな需給の変化があったような場合に影響を受けます。景気が良くなってオフィス需要が増えたり、商業施設の売上が上昇したりといった面で影響を受けるのは、株式に似ているところもあるんです。なので、常にアンテナを張って情報収集に努めておくことで波に乗れたり、リスクを回避できる場面もあると思います。

たとえば商業施設に関しては、アメリカなどでは「通販が盛んになっていったら、リアルな商業施設はもうそれほどいらなくなるのでは」「都心部に高いコストをかけて商業施設を構える必要があるのか」という議論があります。こうした大きな流れは比較的読みやすいですし、特にアメリカなどではそういう状況が先行して発生しやすいので、注視しておいて損はありません。ただし、都心の商業施設はこれからどうなるのか、ということや、流行り廃りで投資対象に変化が見られる場合もあるので、買ったら何十年も放置しておけばいい、といった意識だとリスクが高くなってしまいます。特定の銘柄だけに固執するのではなく、その時々に応じて考えて投資していくことでJ-REITの強みを活かしやすくなるのではないでしょうか。

失敗を避けるには情報収集を怠らず常にリスク管理を心掛ける

KL:ありがとうございます。最後に、J-REITへの投資を考える上で注意すべきポイントについても教えていただけますか?

小林氏:やはり、失敗しないためにはある程度の情報収集は必ず行ってください。

それこそ株式投資をする時と同じで、証券会社に口座を持っていれば投資に関連するニュースは個人でも見ることができるので、影響を受けやすい金利などの動向をはじめ、積極的に情報に触れることをおすすめします。正直なところ、J-REITでも投資対象となる物件の購入の際、投資家の間で議論があるような物件を選択した、といった話はないわけではありません。株式投資をする企業だと、この商品の売れ行きが良い、悪いという情報が出回ったりすることもありますが、物件の情報というのは購入した後にしか出てこないので、事前に予想ができない部分が大きいところがネックなんです。ただ、例えばすごく古いビルを買いそうになった時でも、投資家から見ると「ちょっと待った方がいいぞ」と思うようなケースはあるので、様々な情報に触れてそういった嗅覚を鍛えておくのは大切です。

また、今のように景気がいい時分はあまり気にしなくていいのですが、サブプライムショックのような非常時に借入ができなくなることがあれば、レバレッジをかけているJ-REITは影響を受ける可能性が高いです。サブプライムショックの時に破綻したJ-REITも実際にありますし、そもそもJ-REITは運営する企業が別にあって、不動産会社や金融期間がスポンサーになっています。なので、スポンサー企業が潰れてしまうと根無し草のようになってしまうリスクが伴うんです。スポンサー企業の信用力が借入のしやすさに影響する可能性もあるので、普段は特に問題がなくても、サブプライムショックのような特殊な状況になった時に後ろ盾の重要性が強く出てしまうこともあるわけです。そのため、商業施設や不動産そのものの情報だけではなく、バックもしっかり見ておくことが求められるでしょう。

何より、投資ではJ-REITに限らずいわれることですが、世間の動向が大きく動いているような時は安易に投資をしない、という意識を持っておくことが大切です。