将来のリスクに備えるために生命保険は大きな役割を果たす

将来の怪我や病気は誰しもが抱えるリスクで、一人ひとりが備えていかなければいけません。

しかし、今後見込まれる公的年金の減額や伸び続ける平均寿命などの影響もあり、将来への不安は膨らむばかりです。生命保険などの加入を検討するにしても、非常に複雑化していることから難しさを感じている方も少なくないでしょう。

そこで今回は、将来のリスクに備えるためにはどのような保険を選べば良いのか、関西大学の石田成則教授にお話を伺いました。

石田 成則 /shigenori ishida
関西大学 政策創造学部政策学科 教授

【プロフィール】

1991年慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程修了後、1991年~2015年まで山口大学経済学部の助教授と教授を経て、2015年から関西大学政策創造学部教授。2009年3月に早稲田大学にて商学博士を取得。所属学会は、日本保険学会(理事長)、生活経済学会(理事)、日本年金学会、日本労務学会、日本ディスクロージャー研究学会など。

【所有資格】
博士(商学)

【専門分野】
社会保障、福祉政策、企業福祉、保険

【著書】
『変貌する保険事業:インシュアテックと契約者利益』(中央経済社、2022年 単著)
『ライフマネジメントにおける職域保障の役割』(週刊 社会保障、2022年 単著)
『人生100年時代の生活保障論』(税務経理協会、2021年 単著)
『私的年金の商品性改革と新たな役割』(週刊 社会保障、2021年 単著)
『組織価値を高める企業福祉の新たな役割』(週刊 社会保障、2016年 単著)

生命保険には死亡保険など様々な種類の保険が含まれる

クリックアンドペイ(以下KL):では最初に、生命保険とは具体的にどのようなものなのか、教えていただけますか?

石田氏:生命保険は、人の死亡や病気、怪我などに関する保険ですね。

まず保険には大きくわけて3種類あり、それらを第一分野、第二分野、第三分野と呼んでいます。第一分野は人の生死に関わる生命保険で、第二分野は自動車保険や火災保険など、財に関わるものです。そして、第三分野は人が関わるものではあるけれども、実際にかかった医療費や治療費が支払われる医療保険やがん保険、介護保険などで、実損填補的な要素があります。

そして、生命保険は死亡保険、生存保険(個人年金保険)、傷害疾病保険(医療保険)、就業不能保障保険の4つに分類されます。傷害疾病保険には本当に様々な種類があって、全部を挙げることは難しいです。一部を例に挙げると、がん保険や三大成人病保険、さらに女性限定の疾病保険など、それぞれの人の医療や治療のニーズに合わせた多様な保険が存在しています。就業不能保障保険は、働いている時の所得を保障する保険です。怪我や病気以外にも感染症や、自然災害などで事業がストップしてしまったような場合に保険金を受け取ることができます。

さらに死亡保険も3つにわけることができて、ある人が一定期間内に亡くなった際に保険金がもらえる定期保険、それに対していつ亡くなっても保険金がもらえる終身保険、定年までに亡くなった場合には保険金がもらえるけれども、60歳や65歳など一定年齢以上生存していたら一時金(年金)がもらえる、生死混合保険があります。生死混合保険については、生死合体保険や養老保険という名称で扱われている場合もありますね。

まとめると、生命保険は死亡保険、生存保険(個人年金保険)、傷害疾病保険(医療保険)、就業不能保障保険の4つに大きくわかれていて、その中にまた様々な種類の保険があって、それぞれのニーズや用途に合わせて選択する、ということになります。

生命保険は将来のリスクをコントロールするために役立つ

KL生命保険のメリットとデメリットについても教えていただけますか?

石田氏:生命保険に加入するメリットは、将来の生活上のリスクに備えることができる、という点ですね。

仮に将来、世帯主が死亡してしまった場合には死亡リスクが発生しますし、怪我をしたり病気にかかれば疾病リスクが生じます。それに、実は長生きをすることもリスクのひとつで、定年退職後、定期収入がないのに長生きしてしまうことを長生きリスクと呼んでいます。さらに、今回のコロナのような大規模感染症の発生や、大規模自然災害に遭遇したことによる収入の糧、稼得能力を失ってしまうリスクも存在します。これらのリスクに事前に備えるのが生命保険、ということです。

また、リスクに備えるという意味では適時性も生命保険のメリットといえます。個人として将来のリスクに備えようと思うと、選択肢としては預金や貯蓄がありますが、生命保険も預貯金と同じような役割を果たすことができるんです。

例えば三大成人病のような長期入院を伴うようなリスクや、大きな手術を伴うリスク、それらに備えようとして毎月1万円ずつお金を貯めているという方もいるでしょう。もちろん、コツコツ貯蓄していくことも大切なのですが、もし3ヶ月分しか蓄えていない状況でがんに罹患してしまったら、例えば手術費が10万円、入院費が10万円だと、トータル20万円要るのに17万円も足りない、ということになります。必要な時に必要な額を用意できない可能性があるんです。しかし、がん保険に入っていれば、契約して1回目の保険料1万円を払った時点で保険金を受け取る権利が得られます。がん保険に加入後、いつがんにかかって治療費や手術費、入院費が発生しても、あらかじめ決められた金額を受け取ることができるわけです。これを「必要な時に必要な金額がもらえる」という意味で、保険の適時性と呼んでいます。適時性は、ほかの貯蓄などの方法に比べて保険が顕著に優れているメリットといえますね。

KLなるほど、タイミングが読めない怪我や病気のリスクに備えるためには、預金や貯蓄より保険の方が適した場面も多い、ということですね。

石田氏:そうなんです。それと生命保険の場合、保険会社が保険料を運用している、と考えられる点もメリットといえます。

最近では、インフレなどの経済変動に合わせてもらえる保険金額が増えたり、老後の年金額が増える変額年金などもあるので、保険加入には貯蓄と同様に資金を増やすことができる、という側面も見られるようになってきています。つまり、生命保険には保障と貯蓄がひとつになっている、というメリットが存在するんです。

代表的なものが変額保険や変額年金で、一般的な保険では、契約した時点で死亡保険金や老後に毎月もらえる年金額が確定します。なので、もし亡くなった場合には3000万円や5000万円、長生きして定年退職したら毎月10万円ほどをもらえることになります。変額保険や変額年金はそうではなく、保険会社が自ら金融商品を買うことによって契約者が支払った保険料を増やす、つまり株や海外の不動産などで運用することで、契約者が支払った保険料をより高利回りで運用しているんです。もし保険会社が株を買っていて儲かったなら、そのお金を契約者に還元するので、100万円の保険金だったものが120万円や、150万円になることもあります。

ただし、変額保険の場合は基本的に世帯主が亡くなった後、遺族の人が保険金をもらうことになるので、本人が受け取ることはできません。定額年金保険なら将来自分でお金を受け取ることができるので、保険会社に100万円預けておいて、老後、65歳以降になったら年金として受け取れます。日本の変額年金には最低保証があって、もともともらえるはずだった金額よりも低くなることはないので、こうした資産運用の側面でのメリットもあることは知っておいて損はありません。

KL保険のデメリットについては、どのような点が挙げられるのでしょうか?

石田氏:保険のデメリットは、保険料の支払いは基本的に途中でやめることができない点です。

貯蓄であれば毎月1万円ずつ貯めていても、「今月は家計が苦しいから生活費に回そう」と柔軟に使うことが可能です。しかし保険だと自分のお金ではあるけれども、急に資金が必要になっても積み立てた保険料を取り崩したり、消費に回すことはできません。それに、生命保険は将来に備えて保険料を積み立てていくことになるので、病気になる前からお金がかかります。

さらに難しいのが、生命保険でも損害保険でも全く同じなんですが、支払う保険料はその人のリスクの程度によって大きく変わってくることです。リスクの程度が低い人は安い保険料で済みますが、リスクの程度がものすごく高い場合、どうしても保険料が高くなってしまうわけです。例えば、過去に何回かがんを患ったことがある人だと、残念ながらがん保険に入れない、ないしはものすごく保険料が高くなる、という困難に直面してしまう。本来は健康状態が悪い人ほど保険が必要なのに、必要な保障を得られない。国の保険であれば医療保険料に健康状態が影響することはありませんが、民間の保険には保障が必要な人ほど保障が受けられない、というリスクが存在するんです。これは民間の保険の課題、問題点ですね。

そういうことを踏まえると、今から将来のことをきちんと考え、医療保険などに加入しておくことがデメリットの回避にもつながります。多くの人は、健康なうちから保険に入ろうとは考えません。ですが、早いうちから保険に加入しておけば、のちのち保険の対象から排除されたり、高い保険料を払わなければいけなくなる、といった事態を避けられます。もしかしたらがんになるかもしれない、三大成人病になるかもしれない、という可能性をよく考えて、あらかじめ対策を立てておくことが、将来のリスクを抑えることにつながるでしょう。

民間の保険と国の保険には重なる部分もあり使い分けが重要

KL先ほど、国の保険というお話がありましたが、民間の保険と国の保険との違いについても教えていただけますか?

石田氏:国の保険としては、公的年金、医療保険(健康保険)、介護保険、そして雇用保険(失業給付金等)が存在します。大きな分類としては、年金・医療・介護・雇用の4つということです。

例えば、公的年金が定年退職後に支払われることは皆さんご存知ですよね。ですがそれ以外にも、世帯主が亡くなってしまったら遺族年金が支払われますし、クラブ活動中や事故などで障害を負ってしまった場合にも、障害年金が支払われます。ほかにも、国の医療保険の中には高額療養費制度というものがあって、月の医療費が所得毎の一定限度を超えると医療費は払い戻されます。普段、働いている人は自己負担3割の診療費を払っていますが、その3割についても高額になったら戻ってくることがあるんですね。また、国の保険には地震保険や貿易保険、原子力事故に備えた原子力保険など、産業振興や貿易の促進、原子力発電や人工衛星の打ち上げといった新しい技術のための保険もあります。中でも国による公的な地震保険があることは、日本に住む上では知っておきたいポイントですね。

KL公的な保険がそれほど充実しているとは、正直今まで知りませんでした。しかし、そうなると民間の保険と公的な保険で被る部分も多いのではないでしょうか?

石田氏:その通りです。実はこれらの年金は民間の生命保険とも被っているところがあって、先ほどお話ししたような就業不能保障保険はあまり必要ないケースもあるんです。

ただ、公的な保険があるから民間の保険に入っておく必要は全くないのか、というとそうとも言い切れません。例えば、死亡保険なら遺族年金で代替できてしまうかもしれませんが、遺族年金は国の保険なので、役所の認定までに少し時間がかかってしまうんですね。一方で民間の死亡保険なら損害査定や調査、事実確認などはあっても、比較的迅速に一時金を支払ってもらえます。500万円でも1000万円でも一時金がもらえれば、世帯主が亡くなった後、奥さんと子どもさんで次の生活をどうしようという時に、将来の生活設計が立てやすくなりますよね。

それに、国の保険と民間の保険は全く別の扱いなので、給付調整によって減額されるようなこともありません。先ほどお話しした医療保険でいうと、民間の医療保険は3割の自己負担分を補うものです。公的な医療保険で国が医療費を7割負担していて、3割は自己負担ですが、その3割の自己負担部分を1日1万円、3万円など受け取れるわけです。もっとも、3割の自己負担部分を民間の医療保険でまかなっているといっても、実は先ほどお話ししたような一定金額以上の医療費がかかった場合の高額療養費制度があるので、本当は民間の保険でもらうお金は余剰になる場合もあります。ですが、お見舞いの交通費や、お見舞いの品などの費用があっても、当座のちょっとした金額があれば生活に大きな支障をきたさないようにできるので、国の保険と民間の保険の性質を理解して、使い分けることで日常生活への影響を最小限に抑えられます。

ただ、保険の営業職員さんも公的な保険のことを十分に知らず、公的な保険と民間の保険で内容の重複したものに加入してしまっているケースは多く見受けられるので、各ホームページやスマホアプリなどでしっかり調べて、自分に合った保険に加入することが大事です。

保険に加入する際には虚偽申告や免責条項に注意する

KL生命保険の加入を本格的に検討するとなったら、詐欺などへの対策もすべきかと思いますが、どのような点に注意すべきでしょうか?

石田氏:そうですね。詐欺でいうと、やはり生命保険では昔から保険金殺人が発生しやすいことは否めません。

生命保険は月々の支払い金額自体が小さい反面、仮に世帯主が亡くなってしまった場合には、3000万円や5000万円といった多くの金額がもらえてしまいます。多いのは自分の夫や妻に保険金をかけるというより、企業の団体定期保険で会社が従業員に保険をかけるパターンなんです。会社の事業主が保険料を支払って従業員を保険に加入させ、その従業員を亡き者にして事業主が保険金を受け取る、という事例が存在するんですね。こういった保険金殺人を防がないと、そもそも生命保険に対する不信感を払拭することは難しいでしょう。

別の切り口でいうと、保険に関して大きな不信感の原因になりやすいのは告知義務です。

例えば自分の今の健康状態、既往歴、手術歴、さらに常用薬があるかどうか。これらを正しく伝えることを告知義務といって、契約者に対してリスクがどれくらいあるのか、保険会社の営業職員さんに正確に伝える必要があります。ところが、たまたま契約者がいつも飲んでいる薬のことを忘れてしまっていたり、5年ほど前に手術をしたことがあったけれど伝えていなかった、といったことがあると、最悪の場合はその人が病気になっても保険金が支払われないケースが出てきてしまうんです。

KLせっかく保険に加入したのに、病気になってから「払えません」は非常に困りますね・・・。

石田氏:もちろん、たまたま忘れていただけという場合もありますが、問題なのは保険の営業職員さんの中には契約者に「言ったら保険料が上がってしまうので、既往歴なんて申告しなくていいですよ」と言って、虚偽申告をそそのかすケースがあることです。正直に申告すると保険料が高くなって契約してもらいにくくなってしまうから、虚偽申告を促して契約数を稼ぎ、得点稼ぎをする。こういった事例は保険事業における大きな課題のひとつで、保険に加入する側としても、自分の身を守るために知識として持っておく必要があると思います。

そして、もうひとつの問題は免責条項です。例えば、がん保険に入ったらどんな種類のがんでも保険金がもらえるかというと、実はそうではありません。一例を挙げると、皮膚の上部にできた上皮内がんだと、治療を受けたり手術を受けたりしても一切保険金が支払われないんです。このように、免責条項に含まれる病気や事故だと保険金が支払われないケースも存在する、ということを保険の営業職員さんはきちんと説明しておかなければいけません。しかし、そういうことを説明すると上皮内がんになりやすい人が加入してくれなくなるかもしれないし、契約を検討している人が途中で嫌になってしまうかもしれない。だから正しい説明をせず、免責条項に関する約款を読んでください、と伝えることもなく契約を結ぶことがあります。虚偽申告とあわせて、保険を検討する際にはよく注意すべき事例といえるでしょう。

保険に対するリテラシーを育むことで有効活用しやすくなる

KL貴重なお話、ありがとうございます。最後に、読者の方へ向けてメッセージをお願いできますか?

石田氏:民間の保険は国の保険と違って非常に多様であると同時に、高い選択性があります。

最近では予防一体型や健康増進型保険というものも出てきて、自分自身の健康状態がいいと安く加入できたり、後からポイントをもらえたりする保険も出てきています。それに、国としては保険は貯蓄や預金だけではなく、これからどんどん減額されていくことになる公的年金や医療給付など、国の社会保障を補うために民間の生命保険の役割を強化していきたい、という意図があるので、積み立てた保険料に対しての優遇措置も設けられています。この税制上の優遇措置は生命保険と年金保険、介護保険を合わせて年間で12万円ですが、そこまでの金額であれば税金をかけずに保険料を積み立てることができるので、ぜひ活用していただきたいですね。

日本ではこれまで、「寄らば大樹の陰」ということわざがあるように、国や自分の勤めている企業に頼るところが大部分を占めていました。将来のリスクに対してこれだけのお金をかけている、という説明もきちんとされない場合がありますし、税金のように天引きされてしまうので、将来のリスクに備えているという感覚が欠如してしまうのは当然かもしれません。海外ではそういうところを工夫していて、スウェーデンやシンガポールなどは年金保険料や医療費を自分で積み立てたりする仕組みになっています。それに、アメリカでは自分のお金で積み立てて老後に備えたり、医療に備えることを基本にしています。老後資金の2000万円問題が取り上げられ、今後は国の老齢年金が公的に削られていくということで、自分で積み立てる、いわゆる自分年金で将来に備える人も少しずつ増え始めました。そういうきっかけによって、自分できちんと保険料を支払って将来に備えているんだ、という意識、保険リテラシーを一人ひとりが持つことが何より大切です。 その上で、ますます多様化していく各保険の特徴をしっかり捉えて、より自分に合った、適合性の高い保険に加入するようにしてください。もしかしたら自分は将来病気になるかもしれない、怪我をするかもしれない、就業不能状態になるかもしれない。そうやって、将来の自分の健康や、働けなくなる可能性と向き合いながら、長期的な視野を持ってリスクに備えることが重要です。