現物取引と先物取引は全くの別物!避けるべき投資とは?

現物取引と先物取引は全くの別物!避けるべき投資とは?

経済的な不安が強くなり続ける中で、投資への関心はますます高くなっています。

しかし一方で、老後の生活費を稼ごうとして投資で大失敗をした、といった話も後を絶ちません。こうした失敗を防ぐためには、いきなり投資を始める前に、そもそもどんな取引方法があるかを学んでおくことが大切です。

そこで今回は、日本大学の三井秀俊先生に現物取引と先物取引それぞれの特徴から、先物取引の歴史までお話を伺いました。

現物取引には配当金や株主優待などのメリットがある

クリックアンドペイ(以下KL):まず、これから投資を考えている方のために、現物取引とはどういったものか教えていただけますか?

三井氏:まず現物取引というのは、皆さんが想定している通常の株式取引のことを指します。

例えばトヨタ自動車や、三菱商事などの個別銘柄の株の売買がそれにあたります。現在では電子化されてますが、基本的には現金で支払って株券を受け取る、というのが現物取引です。現物取引だと、配当金がもらえたり、議決権の行使ができたりします。とはいえ、個人では企業経営の意思決定に寄与できるほどの株数を取得することは難しいので、メリットとしては配当金の受け取りがほとんどです。また、日本では株主優待の権利を設けている会社が多いので、そういった部分も現物取引のメリットといえますね。

KL:なるほど。ただ、配当金や株主優待などのメリットがあっても、日本では現物取引をしている人は少ないイメージがあります。実際のところ、現物取引の人口は多くはないのでしょうか?

三井氏:そうですね。もともと、日本人は株式投資を敬遠する人が多くて、NISAができる前の投資人口はアメリカと比べても本当に少なかったようです。

近年、NISAやiDeCo、新NISAが導入されたことで証券口座自体は増えてきました。しかし、証券口座の数と同じだけの人が株式投資をしているかといえばそうではありません。証券口座を開設したけれど売買していないとか、あるいは数十万円程度とか、そういうケースがほとんどのようです。そのため、日本で本格的に株式投資をしている人は、マスコミなどで言われているほど多くはないと思われます。

KL:実際の取引を行うにあたって、注意すべきポイントなどがあれば教えていただけますか?

三井氏:やはり、株価の変動は一般の人が思っているよりも変動幅が大きい、という部分は理解しておくべきですね。

日本に住んでいる人たちは、今まで金利がほとんどつかない環境でしたし、買い物でもスーパーなどで定価で食品や日用雑貨品を買っていますよね。もちろん、野菜の価格なんかは変動しますが、金額でいえばそれほど大きな変動幅ではない。しかしながら、株価って皆さんが想像するよりも変動幅が大きくて、1ヶ月で10%や15%、あるいは20%も変動する株が結構あります。

そのため、例えば新NISAを始めて三井物産の株を買おうとなっても、1ヶ月後には15%下落している、あるいは15%上昇している、なんてことが普通に起こります。そうすると、下落した場合、100万円分買っていたら1ヶ月で15万円マイナスになります。25%も落ちたら、100万円が75万円になっているわけですから、焦りますよね。逆に1ヶ月で10%や15%上昇すれば嬉しいけれど、そんなにしょっちゅう上昇するものでもないし、半年や1年でどれくらい動くかは会社によっても違います。そのため、株式投資を始める前に購入予定の株式の株価変動の仕方や幅はあらかじめ調べておいた方がいいですし、個人で株式投資をするなら本当に余剰資金でやらないとダメだと思います。色々と調べるのが嫌な方は、5年、10年持っていれば株価が下落してもいつか戻るだろう、配当で回収できるだろう、という強い意思を持って、本当に長いスパンで考えないと駄目です。しかし、株価が戻らない可能性だってありますからね。実際は、そう簡単ではありません。

どの銘柄を買うべきかを知る方法は学び続けるしかない

KL:確かに、1ヶ月でどれくらい動くのかもわかっていない状態で15%も下がったとすると、我慢できなくなりますよね。

そういったリスクも考えると、銘柄選びも重要になってくるかと思いますが、おすすめの銘柄などはあるのでしょうか?

三井氏:それはもう、勉強・調査・研究するしかありません。プロでも間違えますからね。

以前 YouTubeで、ある個別株で、配当金がそこそこ高くて、絶対に潰れないような会社だから投資するといいんじゃないか、という情報が多数出たことがあるんですよ。ですが、フタを開けてみたらずっと下落し続けた。結局のところ、配当金の高さとか企業の知名度とか、グローバルに展開をしているからといった要素では買うべきかどうかはわからないんです。

これから投資を始めてみよう、という方は世界的に有名で堅実な会社や、配当金なんかを見て投資する会社を決める方も多いと思いますが、たまたま上がっていても、何年か、あるいは半年くらいで株価が1/3になった有名企業なんて山ほどあります。そういったところは、株式投資はめちゃめちゃ難しいので、初心者の方が「儲かりそうだから」となんとなく買うのは非常にリスクが高いです。

やはり、まずは株式投資に関するいろいろな本を読んでみたり、信頼できるサイトの情報を参考に、購入を検討している会社が営業利益を黒字で出し続けているかなどのファンダメンタルズ面もきちんと調べると良いでしょう。そういうことを地道にやっていかないと、長期で運用してもそれほどリターンは見込めません。有名な会社だけに絞って考えたとしても、どんな会社でも浮き沈みは必ずあるので、その間持ち続けることでどんなリスクがあるのかも理解しておく必要があります。

先物取引はプロ同士の戦いの場で個人が入り込むのは困難

KL:ありがとうございます。続いて、現物取引と比較して扱われることも多い先物取引についても、どういった取引方法なのか教えていただけますか?

三井氏:先物取引は、まず取引できる対象が大きく異なります。

例えば、現物取引だとトヨタ自動車や三菱商事などの個別銘柄が思い浮かぶと思いますが、それらの先物取引があるかといえば、日本では個別銘柄の先物取引はありません。先物市場の金融商品は、日本だと日経平均先物 (日経225先物) やTOPIX先物、JPX日経インデックス400先物などの株価指数先物しかありません。日本国債の先物取引もありますが、日本国債の先物取引は標準物といわれる架空の債券で取引が行われます。

そして、もうひとつ大きな違いは取引単位です。日経平均先物で考えるなら、今の日経平均の価格が3万8000円くらいなので、日経平均先物取引だと最低でも日経平均の1000倍の3,800万円程度ないと取引できないんですよ。それでは個人が取引できないからミニ(mini)取引もあり、ミニ取引なら日経平均の100倍の380万円あれば取引できます。ただ、それでも個人で取引するには最低取引単位が大きすぎると言わざるを得ませんね。実際には、証拠金取引で少額で投資はできますが、運用している金額そのものは変わりません。

KL:すると、先物取引は個人投資家には向かないのでしょうか?

三井氏:基本的に、先物取引はプロ同士の戦いの場なので、一般投資家がそこで勝負しようとするのはやめた方がいいと思います。取引自体の金額の大きさもそうですし、もともとプロの人たちが先物取引をする理由がリスクヘッジのためだからです。

そもそも、日経平均やTOPIXの先物が生まれた理由は、何千億円、何兆円という大きな金額を運用しているファンドや年金基金が、現物取引をしている株価が下がった時のリスクヘッジのためなんです。ただ、先物取引は価格変動が激しく、それを投機に使う人たちが出てきたので、今ではリスクヘッジ目的だけでなく投機筋の人も入り交じるようになっています。それこそ日本国債先物市場に関しては、もう本当にプロのみの世界です。現物の日本国債には個人向けのものがあり、数万円から購入できますが、日本国債の先物市場では、最低取引単位が1億円、ミニ取引でも最低取引単位は1,000万円です。そのため、証拠金取引により全額準備する必要はありませんが、個人で日本国債の先物市場に参入するなんて、現実的ではありません。日経平均先物市場は、個人投資家を取り込みたいということで先ほどお話ししたような取引単位の小さいミニもありますが、今では日経平均の10倍の日経225マイクロ先物も出てきました。ただ、いくら手の届く取引金額になっていても私はお勧めしません。プロ同士が戦っている市場に個人投資家が入っていっても、勝てるわけがありませんから。日本の先物市場というのは、そもそも個人投資家が参入するものではないと思っておいた方がいいでしょう。

KL:なるほど。確かに、そういった環境が構築されてしまっているのでは、個人で参入していく隙はなさそうです。

先物取引はまだ歴史が浅くさらに発展していく可能性が高い

三井氏:そもそも、日本で先物取引をする人が少ない理由は、もとを辿ると歴史的な背景が関係しているんですよ。

実は先物取引は日本が発祥で、江戸時代に大阪の堂島で米(コメ)の先物取引を行ったことから生まれました。もちろん、大昔には個人や一部の業界などで行っていたかもしれませんが、政府公認の下で組織・整備され制度化された市場としては江戸時代の米相場が世界で初めてだったんです。そして、その後アメリカが先物取引を導入して、様々な農作物に適用していきました。そのため、先物取引というのは日本の米相場から始まって、世界的に小麦やトウモロコシ、牛肉などに広がっていきます。そのため牛肉から豚肉、鶏肉、卵まであらゆる農作物に先物取引があり、コーヒー豆やオレンジジュースにも先物市場があります。日本は明治時代に明治政府が先物取引を禁止したので、江戸時代までで米の先物取引は終わってしまいましたが、アメリカでは現在に至るまでシカゴを中心に先物取引を続けています。その後、1970年代のはじめにアメリカで先物取引を金融商品に応用したんです。

1970年前半に何があったかというと、ニクソンショックです。アメリカドルと金(ゴールド)の交換が停止されたのでアメリカドルの価値が不安定になり、アメリカドルとの交換比率が固定されていた円やマルクなどの各国通貨に対して固定相場制が維持できなくなって、変動相場制が始まったわけですね。これらの変動リスクに対応するために、初めて先物取引が金融市場に導入されることになりました。最初は通貨を対象として始まりました。

その後、国債、金利、株価指数に先物取引が導入されることになります。日本では1985年に長期国債先物から始まりました。さらに株価指数についても1988年に日経225先物とTOPIX先物の取引が始まりました。日本の金融先物の歴史としてはまだ40年ぐらいですし、世界的に見てもまだ50年ちょっとぐらいしか経ってません。そのため、金融の世界での先物取引に関して本格的に大学や大学院で学んだ人が少ないということもあります。また、第2次世界大戦後の日本では、小豆や生糸の商品先物が流行り、個人投資家は損をした人が多かった。それで先物は儲からないとか、危ないというイメージが世間に定着してしまったんです。

KL:日本だと先物取引にあまりいいイメージがないのは、そういった背景もあったのですね。最後に、今後の先物取引の展望について教えていただけますか?

三井氏:今後は、暗号資産に関しても先物市場が次々にできると思われます。既に、シカゴマーカンタイル取引所では、ビットコイン先物の取引が始まっています。

基本的に、価格が変動するものであれば何でも先物は作れるんです。先ほど挙げたコモディティはもちろん、金や銀、原油の先物取引は昔からありました。今では電力やガスにも先物があって、これからはそういったエネルギーの先物市場が発展していくでしょう。半導体を作る大きな工場や、マクドナルドなどの外食産業のチェーン店もそうなんですが、電気やガスを使う量が半端じゃありません。そのため、やはり先物取引を利用してエネルギー価格の変動に対してリスクヘッジをしたいわけです。これは自然災害に関してもいえることで、ディズニーランドを運営しているオリエンタルランドなんかは、天気と地震という2つの自然現象が怖いんです。雨の日が続いたり、地震があれば売上は下がってしまいますからね。こういった天候デリバティブに関しては先物取引ができるし、SDGsに絡めて二酸化炭素の削減やCO2排出権に関する先物取引なんかも更に拡大していくと考えられます。