少子化の進行とともに、幼児教育の役割がますます重要になっています。しかし、保育者には単に知識や技術だけでなく、子どもたちひとりひとりの成長を支えるための深い理解と柔軟な対応力が求められます。
この記事では、保育士や幼稚園教諭の養成方法の違いをはじめ、優秀な保育者に求められる資質、そして世界的に評価されている幼児教育の事例をもとに、現代保育の課題と可能性について和洋女子大学の矢藤誠慈郎教授に詳しく伺いました。社会の未来を担う子どもたちのために、今、何をすべきなのでしょうか。
矢藤 誠慈郎 / seijiro yato
和洋女子大学 人文学部 教授
【プロフィール】
広島大学大学院博士課程から、岡山短期大学講師・助教授、新見公立短期大学助教授、ニューヨーク州立大学客員研究員、愛知東邦大学教授、岡崎女子大学教授を経て現職。研究テーマは、養成から現職を見通した保育者の専門性の開発、保育における組織マネジメント・リーダーシップ等。著書に『保育の質を高めるチームづくり』(わかば社)、『園内研修を通じた保育の変革 A to Z』(フレーベル館)等。日本保育学会評議員、日本保育者養成教育学会理事、全国保育士養成協議会常務理事などを務める。
幼稚園教諭と保育士の養成方法と求められる資質
クリックアンドペイ(以下KL):はじめに、幼稚園教諭や保育士を目指す人の養成方法の違いについて教えていただけますか?
矢藤氏: 幼稚園教諭と保育士の養成方法には、いくつかの違いがあります。まず、資格の性質が異なります。幼稚園教諭は教員免許であり、保育士は児童福祉法に基づく資格です。
次に、所菅する官庁が違います。幼稚園教諭の免許は文部科学省が認定した大学や短期大学で主に取得できます。一方、保育士の資格はこども家庭庁が所管し、都道府県が指定した保育士養成施設で取得します。
例えば、和洋女子大学のこども発達学科は、文部科学省から教職課程の認定を受け、千葉県から指定保育士養成施設の認定も受けています。
さらに、養成機関の種類も異なります。幼稚園教諭の免許は主に大学や短期大学で取得しますが、保育士の資格は大学、短期大学、専門学校、さらには指定されたその他の養成施設(高校の専攻科など)でも取得できます。
実際には約8割の養成校が両方の免許・資格を取得できるカリキュラムを提供し、基本的な教育内容、特に幼児期の教育に関する部分は共通しています。保育所、幼稚園、認定こども園の教育内容が共通化されているためです。
ただ、保育士の養成には、幼稚園教諭にはない乳児保育、健康や安全、子育て支援などの科目があり、保育士は児童養護施設などの児童福祉施設などでも働けるため、保育士を目指す学生は様々な児童福祉施設での実習も行うことになります。また、保育士には保育士試験による資格取得方法もあり、幼稚園教諭の免許のみを提供する大学の学生や、一般の方でも所定の受験資格があれば保育士になる道が開かれています。
KL:ちなみに、幼稚園教諭と保育士では、どちらの方が勉強量が多いのでしょうか。難易度に違いはありますか。
矢藤氏:難易度の違いはそれほどないと思います。ただし、保育士資格を取得するためには、より多くの科目を履修する必要があります。私たちが教育する立場から見て、特にどちらかが難しいということはありません。
ただ、保育士の方は、子どもの保健や安全など、多岐にわたる知識が必要になります。様々な分野の知識が求められるという点で、保育士の方がより広範囲の学習が必要だと言えるでしょう。
KL:では、そもそも優秀な保育者とはどのような人だと先生はお考えでしょうか。
矢藤氏:優秀な保育者を定義するのは非常に難しい問題です。教師の場合も同様ですね。私の考えでは、子どもを強引に引っ張っていくような人ではなく、子どもが安心して自分を表現し、力を高めていけるような環境を作れる人が優秀な保育者だと思います。
そのような保育者の根本には、子どもを理解する姿勢があるといえるでしょう。幼児教育では「子ども理解」という言葉をよく使いますが、子どもをきちんと理解できることが重要です。例えば、赤ちゃんでも様々なことを感じ、学んでいます。丸いものが転がることを発見するなど、毎日新しいことを学び、吸収しています。
優秀な保育者は、子どもを1人の人間としてリスペクトし、まだ何もわからない存在ではなく、日々成長する有能な存在だと認識します。子どもを肯定的に理解し、「この子はダメだ」というネガティブな見方ではなく、「こんなことに興味がある」「こんな力が育っている」といった視点で子どもを見ることができます。
そうすることで、子どもは自分を否定されない安心感の中で、様々なことにチャレンジし、試行錯誤しながら成長していくことができます。
世間では、ピアノが上手い、紙芝居が得意、絵本の読み聞かせが上手いといった技術面を重視する傾向がありますが、それだけではありません。それ以上に重要なのは、子どもが主役になれるような環境を作ることです。
優秀な保育者は、子どもが自分で考え、工夫し、友達とのトラブルも自分たちで解決できるよう見守り、適切なサポートをします。子どもを強引に引っ張ったり、言うことを聞かせたり、怖がらせたりするのは良い保育者とは言えません。
子どもが自らで様々なことを学び、友達と協力し合うことの楽しさを知るためには、保育者が少し引いた立場から子どもの気持ちを理解し、適切な言葉がけや環境づくりをすることが大切です。
例えば、子どもたちが何かに興味を持ち始めたら、関連する絵本を用意したり、ものづくりが好きになってきたら様々な素材を準備したりします。また、園庭の地形や保育室の配置なども、子どもたちが興味を持って探索できるように工夫します。
さらに、最近では保育の質を高めるためのチームづくりも重要視されています。1人の優秀な保育者がいるだけでなく、チーム全体で語り合い、高め合い、支え合うことで、保育者が育ち、子どもが育ちます。
子どもたちの成長を見守りながら、保育者自身も「子どもってすごい」と感じ、共に成長していくような関係性を築くことが大切です。このような組織マネジメントやチームづくりの重要性が、現場でも保護者の方々にも理解されていくことを願っています。
これからの保育者に求められるスキル
KL:先ほど、ピアノの話題が出ましたが、保育者になるためには、やはりピアノは必須スキルなのでしょうか。
矢藤氏:ピアノは保育者になるために必要な最低限のスキルとして広く認識され、実際に、大学でもピアノの授業が多く設けられています。日本の保育現場では、ピアノを使った活動がまだ多く行われているため、養成校としてもしっかりと教育を行っています。
ただし、近年このような考え方は変化してきています。日本の幼児教育にピアノが導入されたのは、明治時代に日本がドイツの教育者フレーベルの教育方法を参考にしたという背景があります。現在のお茶の水女子大学附属幼稚園が日本最初の幼稚園として設立された頃から、ピアノは幼稚園の必需品とされ、養成校の授業にもピアノ練習が組み込まれてきました。
しかし、このような実情は国際的に見ると決して一般的ではないようです。例えば、保育者養成課程でピアノや美術を学ぶことをアメリカの先生に話したら驚かれたことがあります。海外では、音楽や美術は専門の先生が来て教えるといった認識が日本より強いように感じます。
日本の保育者養成は、保育・教育の理論、子どもの発達や心理、保育の内容や方法、健康・安全、保健・栄養、音楽表現や造形表現なども学ぶという非常に幅広いカリキュラムになっていますが、現在の保育現場では、ピアノ以外の方法で音楽活動を行うことも増えてきています。例えば、スマートフォンで音楽を流して踊る活動や、ギターを使用する保育者もいます。したがって、ピアノ至上主義的な考え方は減ってきているといえるでしょう。
そもそも、保育者養成課程のカリキュラムにピアノが必須であるとは明記されていません。以前は音楽の技術を学ぶ科目が重視されていましたが、現在は音楽技術に関する科目の単位数は縮小されてきています。現場でも、ピアノを弾く必要性は減少しており、得意な人が弾けばよいし、ピアノが苦手な人は別の方法で音楽活動を行えばよいという考え方が広がっています。
むしろ、音楽を楽しむことや、音をどのように楽しむかという考え方が重視されつつあります。したがって、現在は、ピアノが絶対に必要というわけではありません。ピアノができると活動の幅が広がるため、できる方が良いという程度の位置づけです。
KL: スキルに関してもう少し、教えてください。先生のお話を聞いていると、とても柔らかい話し方をされている印象を受けます。幼児教育に携わる中で、特に話し方などのスキルについて学ばれたのでしょうか。
矢藤氏: 私はもともと教育経営学や学校の組織論を学んでいたため、非常に論理的で鋭い議論を好むタイプでした。しかし、保育の現場に関わるようになってから、理論的で難しい言葉は現場の方々には伝わりにくいことに気づいたため、それ以降は、同じ内容でもできるだけわかりやすく、理解しやすい表現になるよう工夫しています。 また、相手が受け取りやすい話し方や態度にも気を配るようになったこともあり、現場では「易しくて分かりやすい」と言われるようにもなりました。しかし、実際には気が短く、無愛想な面もあります。ただ、子どもたちの様子について話し合ったり、これからの保育のあり方を考え合ったりする際には、技術的な工夫に努めて相手が安心して意見を出せるような雰囲気づくりを心がけるようにしています。
KL: そのようなソフトスキルやコミュニケーション力は、教育者を育成するカリキュラムには組み込まれてているのでしょうか。
矢藤氏: 子どもたちの力を引き出す方法については、もちろん教えています。しかし、多くの教育者や養成校の教員の中には、「教えるべき」「間違いを正さなければならない」「厳しく指導して従わせるべき」という考え方が依然として残っています。
相手が自分の力を発揮して成長するためには、教育者や保育者のサポート技術がとても重要だと考えています。子どもを怖がらせて従わせる先生が「良い先生」とされることもありますが、誤りです。子どもが恐怖心で一時的におとなしくしているだけでは、本当に成長しているとは言えません。
子どもたちが安心して「これをやってみたい」と感じられる環境こそが必要です。特に幼児期の教育では、温かく受け入れられているという環境が子どもの自己肯定感や自己表現に大きな影響を及ぼします。幼少期から、自分が受け入れられていると感じ、自由に表現したり挑戦したりする経験を積むことが、教育上非常に重要だと考えています。
このようなスキルにもっと多くの人が注目することで、不適切な保育や教育虐待の問題解決にもつながると信じています。「怖がらせて従わせる」という誤った教育観を捨て、より適切な教育方法を模索していく必要があります。現場の先生方の研修でも、このような視点を常に伝えています。
世界の幼児教育の方法と日本の取り組み
KL:幼児に対する教育といえば私の中で、モンテッソーリ教育が思い浮かぶのですが、実際の教育現場にモンテッソーリ教育などは導入されているのでしょうか。
矢藤氏:モンテッソーリ教育は独特の内容を持っており、世界中に広がっていますが、現在は、他の様々な教育方法も注目されています。
ほんの少し例を挙げると、イタリアのレッジョ・エミリア地域の幼児教育や、ニュージーランドの「テ・ファリキ」というカリキュラムや「ラーニング・ストーリー」という保育記録の方法などが国際的に注目されています。
学生には様々な教育方法のエッセンスを教えています。モンテッソーリ教育だけでなく、ドイツ発祥のシュタイナー教育など、多様な方法があり、現代の日本の保育にも通じるヒントがそれぞれに含まれています。
したがって、特定の教育方法だけが優れているということはありません。各教育方法は、発祥国の文化や考え方を反映しており、それぞれに固有の考え方や良さがあります。
私は学生に対して、特定の方法を推奨するのではなく、様々な教育方法の特徴や良さを伝え、学生自身がより良い保育のあり方を考えることができるよう努めています。
KL:では、国際的に見て幼児教育が最も進んでいるとされる国はあるのでしょうか。
矢藤氏:特定の国を「最も進んでいる」と評価するのは難しいです。例えば、イタリアのレッジョ・エミリア教育は注目されていますが、イタリア全体がそうだというわけではありません。
各国の幼児教育施設に案内していただくと、素晴らしい取り組みを見ることができますが、それらは必ずしもその国の平均的な水準を示しているわけではありません。経済的に恵まれた地域や、特別な予算が投入された施設や特に成功した施設など、優れた事例であることが多いので、その国の様々な施設を見ることが大切です。
平均的な水準で見ると、日本は比較的高い水準にあると私は考えています。日本は全国的に一定の基準を満たした幼児教育・保育が提供されており、資格を持った保育者が配置され、行政による管理も行き届いています。また、研修などの取り組みにも熱心です。
ただしもちろん、海外の優れた実践から日本が学ぶことはたくさんありますし、それが多くの施設に共有されることが、子どものためにもより望ましいと思います。
KL:日本の幼児教育の平均的な水準の高さは、良い面もありますが、創造性の面では課題があるのではないでしょうか。
矢藤氏:確かにそういえる面もありますが、創造的な取り組みを広げていくには、やはり資金が必要です。現在の日本の保育所等への資金配分システムは、主に子どもの人数や基本的な子育て支援の実施状況等に基づいています。より創造的で先駆的な取り組みを促進するためには、そうした取り組みに対しても資金を提供する仕組みが必要です。大学では先進的な取り組みに対する資金提供の仕組みがありますが、保育所や幼稚園、認定こども園ではまだ十分ではありません。
現場の保育者たちにインセンティブを与えるような仕組みがあれば、より多くの創造的な取り組みが生まれる可能性があります。現在は、意識が高く、学ぶ意欲があり、財政的にも余裕がある一部の施設が先進的な取り組みを行っています。そうした取り組みは学会やイベント、保育雑誌等を通じて少しずつ広がりつつあります。
海外の先進的な取り組みを学び、導入しようとする動きは既にあります。例えば、園長先生たちが学会に参加したり、海外視察に行ったりして学んだことを自園に取り入れたり、さらにはそれを他の園に広めるという循環も生まれています。
保育者養成の課題 少子化の影響と改善策
KL:では、保育者養成における問題点と改善策について教えていただけますか。
矢藤氏: 私は全国保育士養成協議会の常務理事を務めていることもあり、保育者養成の問題点は常に考えています。現状では、まず幼稚園教諭と保育士の養成課程の問題が挙げられるでしょう。
幼稚園教諭の養成課程は文部科学省の厳しい管理のもとで行われており、教員の資格審査も厳格です。例えば、私は教職課程の教育学関連の科目を担当していますが、その科目を担当できるかについて、関連する研究業績の有無を厳しく審査されます。
一方で、保育士の養成課程は各都道府県が所管しており、審査基準が比較的緩やかです。一応研究業績等を提出しますが、その管理はさほど厳格でないので、科目の専門性が十分でないような場合でも担当するということが起こります。
また、保育者養成課程には、様々な分野の専門家が関わっているため、多様な知識が生かせる反面、保育士や幼稚園教諭としての実務経験を持つ教員が少ないというのが現状です。したがって、自分の専門分野ではない保育者養成にどこまでコミットできるか、また日本の保育をよくしていこうという志を持って授業を行えるかどうかは、教員による差が大きくなります。
こうした課題を解決するためには、「子どもの利益を最優先に考える優れた保育者の育成」という共通の目標に向かって保育者養成機関全体が協力する必要があります。全国保育士養成協議会では、教員向けの研修を行い、知識や技能の向上を目指しています。また、さまざまな専門家が集まり、それぞれの専門分野を活かしつつ、保育教育の質を高めるための研究も進めています。
保育者養成校の地域による情報格差も否めないため、オンラインやオンデマンド形式での研修も進めています。
KL:大きな問題として少子化の影響もあると思いますが、少子化による幼児教育の将来性や教育者を目指す人が減少する可能性についてはどうお考えですか。
矢藤氏:確かに、少子化は大きな課題なので、国は幼児教育・保育への投資を増やしています。例えば、消費税の引き上げに際して、子ども・子育て支援が社会保障の枠組みに組み込まれました。また、幼児教育・保育の無償化やこども基本法の制定、こども家庭庁の設立など、子どもを中心とした社会づくりに向けた取り組みが進められています。
したがって、子どもを産み・育てやすい社会づくりが、将来を左右するともいえるでしょう。現状は悲観的ですが、生まれてきた子どもたちのために質の高い教育を提供し、経済的な裏付けのある支援を行うことで、少しずつ状況は改善できる可能性があります。
また、国も保育人材の減少に危機感を持っており、人材確保のための検討会を開催しています。私も東京都などの事業に関わっていますが、保育の仕事の魅力を適切に伝えることが重要だと考えています。
保育の仕事の魅力を伝える一環として、保育の仕事は専門性が高く、充実した仕事であることをもっと社会に発信する必要があるでしょう。保育業界は比較的閉鎖的な面があったため、今後は社会の変化を取り入れながら、業界としても進化していく必要があります。
現在、保育士養成校への入学者も減少傾向にあり、学科の閉鎖や保育者養成校の閉校といった事態も起きています。一方で、地域によりますが、管理栄養士や看護師など、専門性が高いと認識される職業には依然として学生が集まっています。
このような状況を踏まえると、保育士の専門性をより高め、社会的認知を向上させることが重要だと考えられます。例えば、保育士資格の取得に必要な年数を延長したり、大学院進学を推奨したりするなど、専門性をより反映した仕組みづくりが必要です。
保育業界の未来に向けた新たなサービスの可能性
KL:では、もし先生が起業家になったとして、保育に関する新しいサービスを創造しようとした場合、どのようなことを考えますか。保育者養成に関するサービスでも、保育環境の整備に関するものでも構いません。
矢藤氏:実際に、保育に関する新しい取り組みは少しずつ始まっています。私自身も保育のデザイン研究所という会社のアドバイザーを務めており、オンライン研修などを行っています。
私が主に考えているのは、研修のコンテンツやスキームを充実させ、アクセスしやすく、かつ低コストで質の高い学びの機会を提供することです。
特に、地方や遠隔地など、学びの機会に格差がある地域に対してどのようなサービスを提供できるかが重要だと考えています。
例えば、首都圏では様々な会社が多様なサービスを提供し、養成校も多数あるため、協力や相談が容易です。しかし、地方では養成校が少なく、研修の講師を呼ぶにも困難が伴います。オンラインでの研修が可能になりましたが、保育現場を実際に見ながら一緒に考えるような研修には限界があります。そこで、以下のような取り組みを考えています。
- 保育現場の人向けの研修
- 養成校の教員向けの研修
- どこにいても容易にアクセスでき安価で内容が充実した学習機会の提供
- 質の高い研修講師の育成と全国への派遣システムの構築
これらの取り組みを通じ、すべての子どもの最善の利益を保障することを目指しています。
また、すべての子どもという視点で考えると、様々な背景を持つ子どもたち一人一人に全国どこでも質の高い専門的な保育が提供されるようにすることが重要です。
そのためには、保育現場や養成校が学ぶためのコンテンツやスキームを開発し、それらを提供できる人材の育成と全国への配置が考えられます。抽象的な構想にはなりますが、すべての子どもたちに平等な機会を提供するための重要な取り組みだと考えています。
すべての子どもの最善の利益を目指して
KL:ありがとうございます。最後に、保育関係の今後の展望について5年後や10年後に保育環境に何か変化はあるでしょうか?
矢藤氏:現在、日本には幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領という3つのガイドラインがあります。5年後には、これらが統合されることを期待しています。実際、内容の核となる部分は既に共通化が進んでいます。
小学校の学習指導要領と同様に、これらのガイドラインは約10年ごとに改定されます。次の改定に向けて、国レベルでの作業が進められています。改定の際は、幼稚園、保育所、認定こども園の3本立てになっている日本の制度が統合されるような方向に向かうことが期待されます。
国際的に見ると、日本のように児童福祉としての保育所と幼児教育を行う幼稚園を分けている国は少なくなっています。例えば韓国では、幼保一体化に向けて急速に動いています。日本は認定こども園という一体化施設を作りましたが、まだ中心的な存在にはなっていません。今後は、施設形態は残しつつも、カリキュラムを共通の1つのものとして統合する方向に進むことが望ましいといえるでしょう。
また、保育士と幼稚園教諭の資格を一つに統合することも大きな課題です。ただし、保育士資格は0歳から18歳までの児童福祉に関わる資格なので、統合する際には18歳までの子どもたちが生活する児童養護施設の専門資格についても考慮する必要があります。
これらの資格・免許制度の整備が、より統合された方向に進むことを期待しています。国際的に見ても、日本はこの点でやや特殊な状況にあるので、早急に対応する必要があります。
子どもが保護者の都合で保育所に行くか幼稚園に行くかが分けられるという状況を改善し、すべての子どもの最善の利益を社会全体で保障することが課題だといえるでしょう。
理想的には、認定こども園のような形態が主流となり、1つの施設内で早く帰る子どもも、長く滞在する子どもも、年齢の異なる子どもたちも一緒に過ごせるようになればよいと考えています。
ただし、歴史的経緯もあり、様々な障壁があります。今後の改革の中で、国や専門家がどこまで進められるかが注目すべき点です。私たち研究者も、可能な範囲で貢献していきたいと考えています。