株式投資で成功を収めるには「投資」と「投機」の違いを把握することが鍵を握る

経済の先行きが不透明な中、将来に向けて投資で資金を増やしたい、と考えることは自然なことです。

しかし、「投資はギャンブル」という声も根強いため、投資をしたくても迷っている、という方も多いかもしれません。また、投資における代表的な分析方法であるファンダメンタルズ分析とテクニカル分析、どちらを使えば良いのかわからないで足踏みしている方もいるでしょう。

そこで今回は茨城大学理工学研究科の鈴木先生に、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析の使い分け方から、投資と投機の決定的な違いまで、投資すべきか悩んでいる方に向けたお話を伺いました。

鈴木智也 / tomoya suzuki
茨城大学 大学院理工学研究科 教授

物理学で博士号を取得後、東京電機大学助手、同志社大学講師、茨城大学准教授を経て、2016年より同大学教授。2024年より同大学地域未来共創学環副学環長。

テクニカル分析では国際最高資格 (MFTA) やジョン・ブルックス賞を受賞し、大和アセットマネジメント(株)特任主席研究員を兼務。データサイエンスや機械学習によるビジネス利活用を研究テーマとし、AIを用いた料理対決では有名シェフに勝利。

【ショート動画】 https://www.youtube.com/watch?v=LbLWiCfrvis&t=5s

【対決フル動画】 https://www.youtube.com/watch?v=cgZ-ESYRMCU&t=1783s

ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析の本質的な違い

クリックアンドペイ(以下KL):まず初めに、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析の概略について、教えていただけますか?

鈴木氏:それでは、ファンダメンタルズ分析から先にお話ししていきましょう。

ファンダメンタルというのは基礎的条件のことで、株式市場で言えば理論株価(企業価値)を合理的な根拠に基づいて評価するのがファンダメンタルズ分析です。とてもシンプルに書くと下の式のようになります。

理論株価 ≒ 将来の配当総額 / 割引率

≒ 現在価値(簿価) + 利益価値 + 成長性 – 金利 – リスク

本当はもっと難しい数式になりますが(≒は簡略の意)、ファンダメンタルズ分析は伝統的な学術分野(ファイナンス理論)に基づいています。株価は基本的に、将来得られる配当を金利等で現在価値に割り引いて算出する、という点に関しては誰しもが納得することで、疑問の余地はありません。

式の詳細については、プラスはポジティブ要因、マイナスはネガティブ要因だと思ってください。現在価値(自己資本や企業資産)が増えれば株価も当然上がりますし、将来得られる利益が高くなると見込まれる場合も好材料になるので、利益の成長性もポジティブ要因になります。

反対に、金利やリスクが上昇するとマイナス要因になります。株主はその対価に見合うリターンを要求するため、先ほどのポジティブ要因を打ち消すマイナス要因になります。

ファンダメンタルズ分析の基本的な考え方として、株式の本質的価値を把握した上で、現在の株価のミスプライス(割高や割安)を判断したい、という狙いがあります。

KLテクニカル分析はファンダメンタルズ分析とは考え方が全く異なるのでしょうか?

鈴木氏:テクニカル分析の狙いは株価ではなく相場、つまり人間の集団心理に着目して、トレンドの発生や継続、反転などを実データから把握することにあります。

相場には人間心理が入っているので、株価は必ずしも理論どおりに変動するとは限りません。時に過剰に割高や割安になると考えられます。よく言われる例え話は、美人投票ですね。相場予想は「自分が美人だと思う人ではなく、参加者のみんなが美人だと思う人を予想する」必要があります。つまり真実を分析するというよりも、市場参加者の集団心理を予想して株式相場を把握する観点が重要です。

結論として、分析対象が理論株価か集団心理か、というのがファンダメンタルズ分析とテクニカル分析の違いといえます。

【ファンダメンタルズ分析】

  • 株式の本質的価値(理論株価)を把握し,ミスプライス(割安や割高)を検出したい.
  • 理論株価 ≒ 将来の配当総額 / 割引率
    ≒ 現在価値(簿価) + 利益価値 + 成長性 – 金利 – リスク
  • 特に成長性は,外部環境の影響も受けるため,推定が難しい.
  • 金利やリスクも同様.
  • 外部環境:景気局面,経済政策,為替動向,サプライチェーン,業種,国際情勢,など.

【テクニカル分析】

  • 相場(集団心理)の現状を把握し,今後の動向を予想したい.
  • 相場 = 集団心理
    = 市場参加者の平均的な思い ≠ 理論株価
  • 統計的な特徴抽出(フィルタリング)機能:
    (例) 移動平均 ≒ 水準(平均値),ボリンジャーバンド ≒ 標準偏差,移動平均乖離率 ≒ 速度(1階微分),MACD ≒ 加速度(2階微分),RSI ≒ 歪度 など
  • システムトレード(自動売買)の取引ルールに活用できる.

ファンダメンタルズ分析のメリット・デメリット

KLなるほど。ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析では、分析するデータのみならず、考えている対象そのものが全く異なるのですね。

それぞれのメリット・デメリットについては、どのような違いがあるのでしょうか?

鈴木氏:ファンダメンタルズ分析のメリットは、学術的な裏付けがしっかりしていることですね。

というより、将来の配当を足し算して、現在価値に割り引いたものが株価なので、特に疑う余地がないと言った方が良いかもしれません。企業価値の算出方法も非常に学術的な議論に基づいています。説明責任が果たせるからビジネスツールにも成り得ますし、だからこそ投資信託とか大口の機関投資家は、テクニカル分析ではなくてファンダメンタルズ分析を重視しないと仕事になりません。

一方で、ファンダメンタルズ分析のデメリットは分析の難しさです。特に、成長性の把握は業績予測に相当するため非常に難しく、例えば主力商品の売れ行き等の内部要因であればそれなりに分析できるかもしれませんが、景気動向など外部要因も影響するため、全ての動向を読み切ることは正直できません。予想値が変われば理論株価の計算結果も変わるため、プロのアナリストでも意見はバラバラです。成長性の算出方法によって、割安と判断するアナリストもいれば、割高と判断するアナリストもいる。だからミスプライスだと思ったのに全然株価が戻らない、ということもよく起こるわけです。ここがファンダメンタルズ分析の難しさです。

KL企業の成長性に影響する外部要因には、どのようなものがあるでしょうか?

鈴木氏:まず、景気局面が売上に大きく影響しますし、局面に応じて国の経済政策により金利の上げ下げも行われます。そして、輸入企業や輸出企業は為替動向にも強く影響されることは言わずもがなでしょう。また、企業業績は取引先の状況によっても左右されますし、時代に応じて追い風の業種、向かい風の業種も変わります。さらに国際情勢に目を向けると、戦争などアクシデントの有無も、企業の成長性に影響を与えます。ファンダメンタルズ分析では、理想的には考えうる要因を全て勘案しないといけません。ですが、プロのアナリストやエコノミストだとしても、なかなか至難の技です。

KLすると、個人投資家のファンダメンタルズ分析では、あまり良い結果は期待できないのでしょうか?

鈴木氏:いえ、個人投資家でもファンダメンタルズ分析で投資をすることは可能です。

重要なのは成長性の予想なので、企業の成長性を自分が納得できるレベルで判断できれば、個人投資家でもファンダメンタルズ分析は役立つでしょう。巷の雑誌やインターネットのサイトで、理論株価が発表されていますよね。あれは出版社が企業の公開情報を使って計算したものなので、たとえば会社四季報(東洋経済新報社)を使えば同じことができます。

【メリット】

  • ファイナンス理論など,学術的な根拠に基づいている.
  • 顧客向けのビジネスツールになり得るため,機関投資家や資産運用会社も利用する.

【デメリット】

  • 成長性の把握(業績予想)が困難.予想値によって理論株価が大きく変わる.
  • ミスプライスと思いきや,株価の修正が起こらない場合がある.

テクニカル分析のメリット・デメリット

KLありがとうございます。続いて、テクニカル分析のメリット・デメリットについても教えていただけますか?

鈴木氏:テクニカル分析のメリットとしては、人間が理解しやすいことが挙げられます。

メジャーなものだと移動平均がありますよね。株価はチャートだとギザギザと動いて非常にノイジーですが、移動平均を使ってノイズを除去すれば株価のおおよその水準を可視化できます。なので、人間が現状を理解するための可視化ツールとして使うには大変便利です。計算はExcel等で簡単にできますので、誰でも使えることもメリットです。

ただ、テクニカル分析のデメリットとして、相場予想においては仮説の域を出ない点に注意が必要です。例えば、代表的なものではゴールデンクロスで、短期移動平均が長期移動平均を下から上へ突き抜けるとしばらく上昇トレンドが継続する、なんていいますよね。ただ、それはあくまでも仮説であって、トレンドに勢いが増した点は事実ですが、その勢いが今後も継続する根拠や保証はありません。

近年コンピューターが発達して、実際の株価データをたくさん入手できるようになりました。それに伴い、世界中でテクニカル分析の仮説は本当に正しいのか、検証をするようになりました。ここ30年くらいの話です。経済学者など様々な研究者の関心を集めましたが、なかなか統計的な検定をパスできません。結局は仮説止まりで、近年はかなりトーンダウンしています。

KLすると、テクニカル分析をしても全く意味がないのでしょうか?

鈴木氏:いえ、僕としては、テクニカル分析は株価の特徴を抽出するフィルタリングツールとして使うのが良いと考えています。

先ほどの例のように、移動平均を使ってノイズを除去し、平均値を株価水準として抽出する。ゴールデンクロスだったらその水準の変化に着目するため、速度を抽出することに相当します。MACDなら加速度、RSIは売られ過ぎ(や買われ過ぎ)の歪み、ボリンジャーバンドなら標準偏差・・・というように、相場の現状を把握するための特徴抽出器(フィルター)として使うならば、テクニカル分析は大変便利な道具になり得ます。計算式は簡単ですし、今の相場状況をリアルタイムで可視化できます。

KL確かに、チャートを漠然と見ていたのではわからないデータも、テクニカル分析を行うと視覚的に理解しやすくなるので、投資初心者も分析がしやすくなりますね。

鈴木氏:ただ、誰でも使えるということは競争優位になれないので、テクニカル分析だけで勝つことは難しいと思います。

それに、もし本当にテクニカル分析の仮説が正しいとしたら、ゴールデンクロスが出現した瞬間に良いポジションの取り合いが起こるはずです。つまりテクニカル分析は、スピード勝負に帰結します。スピードに遅れれば、すでに旨みが消えた水準でエントリーしますので、ポジションを単にリスクに晒すだけになります。そしてそのポジションは、以後のチャンスにてスピードが速い投機筋に刈り取られます。こんな投機的なゼロサムゲームにおいて、「何を根拠にスピード勝負で勝てる自信があるのか?」を自問自答する必要があります。

テクニカル分析のコンセプトは大変面白いので、昭和の頃から令和においてもファンは多いです。しかし上記の理由により、なかなか安定的な利益は難しいです。一時的に利益が出ることもありますが、自信や根拠が無いならば、利益はまぐれであって実力ではない事を認識すべきでしょう。

【メリット】

  • 計算式が容易なので,誰でも利用できる.
  • 理論株価は短期的に変わらないが,短期的な相場変化を分析できる.

【デメリット】

  • 計算式が容易な反面,技術で競争優位になりにくい.スピード勝負に帰着する.
  • 相場予想においては,根拠が仮説に過ぎない.学術的な裏付けが無い.
  • 投資根拠が弱いため,顧客向けのビジネスツールになりにくい.
  • 専業の投機筋に対して,スピード勝負に勝つ根拠はあるのか?

ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析の使い分け方

KLテクニカル分析だけでは勝てない、とのことですが、やはりファンダメンタルズ分析を主体にした方が有利なのでしょうか?

鈴木氏:僕は、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析は、組み合わせて使うのが良いと考えています。

ファンダメンタルズ分析は株価ベースでの計算なので、企業の業績が変化しない限りは理論株価も変わりません。なので、中長期の投資になります。一方、テクニカル分析は短期的な相場変化に着眼するため、両者を組み合わせることで長期から短期までをカバーできます。

よく言われるのは、ファンダメンタルズ分析は銘柄選択で、テクニカル分析はタイミング選択だということです。ファンダメンタルズ分析は割安・割高の判断なので、いわゆる「お買い得株」を見つけるのに適しています。割安だったら買えば良いし、割高だったら売れば良いです。そういうバーゲンセールを見つけるのにファンダメンタルズ分析が役立ちます。

とはいえ、ミスプライスはすぐに修正されるとは限りません。しばらく割安や割高が続くこともあり得ます。ではいつエントリーすればいいのか、となった時にテクニカル分析を併用します。ミスプライスが縮小し始めている、あるいは拡大し始めている場面を移動平均などで分析することで、修正が始まったタイミングを「お買い得時」としてエントリーするわけです。このように、ファンダメンタルズ分析は中長期、テクニカル分析は短期的な視点で、要所ごとに使い分けます。

【ファンダメンタルズ分析】

  • 中長期的な視点による投資銘柄(お買い得株)の選択
  • 割安割高(バーゲンセール)の把握

【テクニカル分析】

  • 短期的な視点による投資タイミング(お買い得時)の選択
  • いつバーゲンセールに参加するか(ミスプライスの修正開始を狙う)
  • 可視化による現状把握 → 局面変化の認識 → 今後の展開予想

投資で利益を上げるためには4つの技術を磨くことが大切

KLなるほど。ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析の両方を駆使することで、互いの弱点を補い合うような使い方ができるのですね。

ちなみに、先ほどファンダメンタルズ分析は投資というお話が出ましたが、テクニカル分析は投資というよりも投機、つまりギャンブルにあたるのでしょうか?

鈴木氏:そうですね。投資か投機か、という観点でいうと、学術的な裏付けが弱いテクニカル分析は投機にあたります。

投資か投機かを考える上で重要なのは、経済学的な根拠があるかどうかです。投資には根拠があって、投機には根拠がありません。やはりお金をリスクに晒すとなれば学術的な根拠が欲しいですし、根拠がないと運任せ、それこそギャンブルになってしまいます。しかし投資ならば学術的に技術介入の余地がありますので、今から説明する「4つの技術」を磨くことで収益性を改善できます。

まず1つ目は割安だから買う、割高だから売る、という基本的なコンセプトを押さえます。そして、2つ目は集団心理。やはり株価といっても相場相手ですから、テクニカル分析を併用して集団心理にも注意を払うと良いでしょう。ただ、認識ミスというのは起こり得るので、そういう時にきちんと損切りをしてリスク回避できるかどうかが3つ目の技術になります。人間どうしても負けると取り返したくなる心理が働くものですが、シストレ等の自動売買ツールを使えばコントロールしやすくなるでしょう。

そして4つ目のポイントが、無駄なリスクを取らないことです。投資はリスクの対価(リスクプレミアム)としてリターンを得るため、ある程度のリスクは避けられません。しかしリターンに反映しない過剰なリスクを取ることは無駄です。そういう無駄なリスクを排除するために、銘柄分散や時間分散のような工夫を施し、負けたら取り返そうなど人間心理の弱さに負けてはいけません。例えば一度に大金をつぎ込んで一発勝負みたいなことをすると、時間分散が働きませんし、そのたった1回で破産することもあります。勝つには技術が必要ですが、負けるのは簡単です。無駄なリスクを取らないように資金管理も含めて、今お話しした4つの技術を修得することが重要です。

【投資の基本】

  • 割安銘柄を買う.割高銘柄を売る.

【技術介入ポイント】

  • 割安割高の認識: ファンダメンタルズ分析
  • 集団心理の認識: テクニカル分析
  • 認識ミスの対処: システムトレード(損切ルールの徹底)
  • 無駄リスクの削減:分散投資,資金管理
    (負けを挽回しようと投資金額を増やすのは厳禁)

個人投資家なら小型銘柄を狙うことで強みを活かせる

KL投資は技術を身につければ運任せにならずに収益が狙える、ということですね。

せっかくなので、これから投資を始める方におすすめの銘柄なども教えていただけると有難いです。

鈴木氏:優等生的な回答としては、やはり市場インデックス型の投資信託を長期で保有することですね。銘柄分散と時間分散により、無駄なリスクを排除できます。 しかし長期保有するだけなので、面白味は無いですね。

ただ、せっかく個人投資家として投資や投機をするのなら、機関投資家が対象にしない中・小型銘柄を選んでみてください。特に小型銘柄ですね。機関投資家は流動性の観点から小型銘柄を売買しない(できない)ため、銘柄を分析するアナリストを付けません。アナリストがいないということは、情報が入ってこないため外国人投資家も参入してこない。そうなると、流動性が低いからミスプライスが放置されやすく、割安・割高が発生しやすくなります。

さらにプロが不在ということは、ファンダメンタルズ分析をする市場参加者が少ないことを意味します。すると、集団心理の影響が大きく残り、テクニカル分析の仮説が機能しやすい環境だと考えられます。必ずテクニカル分析が機能するとは言い切れませんが、大型銘柄に比べると機能する可能性は高いので、個人投資家にとってはチャンスだと思います。そして個人投資家だからこそ、そのチャンスに向き合うことができます。

KL小型銘柄にそんな魅力があったとは。雑誌やサイトで取り上げられる注目企業や、大型銘柄ばかりが魅力的な投資先とは限らないのですね。

鈴木氏:ただし注意点として、流動性が低い小型銘柄ほど値動きは不安定なので、リスク対策は必須です。仮説が機能しなかった時のために損切りルールを徹底することや、ひとつの戦略だけではなく、たとえば順張りと逆張りを組み合わせる等の「戦略分散」により、リスクを低減する工夫が重要です。

複数の戦略や銘柄を混ぜてポートフォリオを組み、その保有期間を長くすれば時間分散が働くため、リスクを低減できます。さらに、買いだけでなく売りを混ぜることも有効です。異なる銘柄で買いと売りをすれば、市場全体の影響を中立化(マーケットニュートラルに)できるため、予測が難しい景気動向に左右されにくくなります。

【機関投資家が投資しない中小型銘柄に注目】

  • アナリストが付いていない.外国人が投資しにくい → ミスプライスが発生しやすい.
  • 流動性が低い → 効率性が働きにくい → ミスプライスが放置されやすい.
  • 相場(集団心理)の影響が大 → テクニカル分析の仮説が機能しやすい.

【リスク対策が重要】

  • 仮説が機能しない可能性 → 損切ルールの徹底,戦略分散
  • 不安定な値動き → 銘柄分散,時間分散(トータルの保有期間は長いほど良い)
  • 売りも混ぜる → マーケットニュートラル(市場動向によらない)

鈴木氏:初心者がやりがちなミスとしては、売買戦略の最適化のやり過ぎに気をつけたいですね。

機械学習でいえば過学習やデータマイニングバイアスに相当しますが、複数のテクニカル指標を組み合わせ、複数のパラメータを虱潰しに調整し、なんとか過去のデータにフィットするように売買戦略を最適化しますよね。最適化自体は良いのですが、やり過ぎると単に過去のデータだけに適合する「まぐれ戦略」を作ってしまう恐れがあります。

巷の雑誌でも、こういうテクニカル分析を使ってこれだけ儲かりました、のような記事を目にしますが、新規のデータには適合しない可能性があります。したがって、最適化した戦略を鵜呑みせず、最終的には人間が戦略の合理性を判断し、納得できる範疇に留めて戦略を磨くのが良いと思います。

あと、これは注意喚起になりますが、最近はAIが注目を集めているため、投資に関するAI詐欺が増えている印象です。十分に警戒してください。

実は、巷にある普通のAIアルゴリズム(フリー素材)を使うだけで、簡単に投資商材を量産できます。先ほどの最適化を加えると、簡単に見栄えの良いバックテストも作り出せます。いかにも高性能なツールに見せかけることは簡単です。

見栄えの良い実績を提示されると、投資がうまくいかずに悩んでいる方が飛びつきたくなる気持ちもよくわかります。ですが、最初は無料でたくさんの人に使わせて、「必ず発生する」まぐれ勝ちをした人をターゲットに高額商材を売りつける商法が考えられるため、安易に飛びつくとカモにされかねません。業者のシストレを活用する場合でも、信頼できるツールなのか入念に情報を集めて確認しましょう。まぁ、真に有効なシストレならば、公開されることは無いと考えるのが自然ですが…

【バイアスに注意】

  • 売買戦略を最適化しようとしない → まぐれ勝ち戦略を選出してしまう危険性
  • テクニカル分析を現状把握ツールとして使う.

【投資商材(AI詐欺)に注意】

  • 巷のAIアルゴリズムを組み込むだけで,AI投資ツールは簡単に量産できる.
  • 無料試用でも危険 → 試用者が多い → まぐれ勝ちユーザーが増える
    → 気を良くした幸運ユーザーに詐欺商材を購入させる(悪質商法)

投資と投機のどちらをやりたいのか再確認して取引に臨もう

KL貴重なお話、ありがとうございます。最後に、これから投資を始めようと考えている方に向けてメッセージをお願いします。

鈴木氏:すでに投資、あるいは投機をしている方、これからやってみようと思っている方も、大切なお金をリスクに晒す前に、自分は投資と投機のどちらをやりたいのか明確にしましょう。そのために、投資と投機をきちんと区別しましょう。

投資の収益根拠は、企業や経済の成長です。成長するために株式を発行して資金を集めているわけですから、企業や経済は基本的には成長します。だから、その成長に乗っかっていけば投資家みんなが儲かる仕組みになっています。ただ、インデックス投資のように日経平均株価やTOPIXと連動するようなポートフォリオ(投資信託)を長期保有することが最良策になるため、つまらない運用になりがちです。投資はみんながハッピーになれる一方で、堅実なビジネスなので、事務的で面白くないのはやむを得えません。

一方、刺激を求めて投機に興味を持つ動機が生じますが、投機は基本的にゼロサムゲーム(富の奪い合い)なので、収益根拠は個人的な技能になります。たとえば知識・情報・時間で他者を上回らなければいけません。すごく高性能な機材があるとか、通信速度がずば抜けて速いとか、四六時中チャートを見ていられるとか、そういった他者を優越する「合理的な根拠」が必要になります。

ただ、投機の初心者がそういった強みを持っているとは考えにくいため、まぐれで勝てたとしても根拠に乏しければ、その勝ちに再現性はありません。投機をするなら、この厳しさをしっかり認識しておくことが大切です。投機は刺激的で面白く、頑張って利益を得た達成感も高いです。しかし突き詰めれば、投機は自己利益を追求する利己的行為なので、実力が全ての厳しい世界です。

一方、投資は他者を助ける利他的行為です。経営資金を供給して会社を支援し、その合理的な対価として収益を得ます。お金を貸したことでもらえる金利のようなものですから、比較的簡単に収益を得ますが、刺激は少ないです。

まずはこれらの違いを認識し、大切なお金をリスクに晒す前に、自分は投資をやりたいのか、投機をやりたいのか、自問自答すると良いでしょう。

【投機】 ゼロサム

  • 短期的なミスプライス(相場 ≠ 株価)の奪い合い.
  • ミスプライスの認識&獲得には,他者以上の「知識・情報・時間」が必要.
  • 勝てる根拠はあるか? or 負けを覚悟できるか?
  • 安易に勝てない → 部が悪い → でも面白い!(ギャンブル的)

【投資】 プラスサム

  • 長期的な経済成長に乗る.
  • ポートフォリオを長期的に保持 → 面白くない(事務的・ビジネス的)
    (例) インデックス投資,パッシブ運用

【収益根拠】

  • 投機は「自利」.実力による利益獲得 → Hardなギャンブル
  • 投資は「利他」.経営資金支援による合理的な対価 → Easyなビジネス