投資の様々な選択肢が登場している中でも、ETFは魅力的な投資方法のひとつです。
しかしETFと投資信託の違いや、株式との違いなどがよくわからず、ETFに投資すべきかどうかで悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は大東文化大学の郡司教授に、ETFの特徴や投資信託との違い、ETFならではの強みなどについてお話を伺いました。
郡司 大志 / hiroshi gunji
大東文化大学 経済学部 現代経済学科 教授
【プロフィール】
・学歴
1997年3月 法政大学経済学部卒業
2007年3月 法政大学大学院社会科学研究科経済学専攻博士後期課程修了 博士(経済学)
・職歴
2003年4月 日本学術振興会特別研究員(PD)
2006年4月 東京国際大学経済学部客員講師
2009年4月 大東文化大学経済学部専任講師
2012年4月 大東文化大学経済学部准教授
2017年4月 大東文化大学経済学部教授
・主な研究業績
“Did the Bank of Japan’s Purchases of Exchange-Traded Funds Affect Stock Prices? A Synthetic Control Approach,” with Kohei Aono and Hayato Nakata, Applied Economics Letters, Vol. 29, Issue 20, pp.1859–1863, Taylor & Francis, 2022.
ETFは分散投資によって効果的なリスクヘッジができる
クリックアンドペイ(以下KL):まず初めに、ETFと投資信託にはどのような違いがあるか、教えていただけますか?
郡司氏:ETFは日本語だと「上場投資信託」といって、名前からもわかるように投資信託の一種です。言うなればETFは投資信託の一部で、ETFとそれ以外の投資信託には若干の違いがあります。
ETFは名前に「上場」とついている通り、証券取引所に上場したものを指し、投資信託の中では特殊な部類です。一方、それ以外の投資信託は上場していないものになるので、金融機関や郵便局などで買うことができます。ETFと投資信託の代表的な違いとしては、主に4つ挙げられるでしょう。
1つ目の違いとして、銘柄数に関しては投資信託全体でおよそ5,800〜5,900くらいあるんですが、ETFはそのうちの300ほどで全体から見ればごく一部です。2つ目に、投資信託は通常、収益は再投資に回されることがほとんどですが、ETFでは分配金が支払われることも特徴といえます。3つ目に、ETFは取引所が開いている時間はリアルタイムで値段が変動していて、成行注文や指値注文を行うことができます。一方、ETF以外の投資信託は値段がつくのが1営業日ごとになるので、リアルタイムで値段を見て売買をすることはできません。そして4つ目として、ETFは上場している株式と同様に取引できるため、ほかの投資信託に比べて信託報酬という売買手数料が低く、場合によっては手数料なしで取引できることもあります。ETF以外の投資信託には販売手数料や信託財産留保額などの手数料がかかったりするので、手数料の有無はETFと投資信託との大きな違いのひとつといえるでしょう。
ETFと投資信託のどちらが良い、悪いとは一概にはいえませんが、それぞれに違いと特徴があることは押さえておくべきポイントといえます。
KL:なるほど。ETFは投資信託の一種でありながら、投資信託とは異なる性質を持っているのですね。
続いて、ETFを購入・運用するメリットについても教えていただけますか?
郡司氏:ETFのメリットとしては、株式などよりも少額で始めることができ、かつ分散投資ができる点が挙げられます。
ETFは少額の資金を集め、それを証券市場で分散投資するファンドであり、分散投資になっているので理論上は個別運用よりもリスクを抑えることが可能です。また、様々なタイプの銘柄を組み合わせて分散投資のポートフォリオを組める点も魅力といえるでしょう。数自体は投資信託の方が多いんですが、それでもETFには300ほどの銘柄が存在するので、日本株と連動型のETFや外国株と連動型のETF、あるいは債権のETF、それからREIT(リート)なども選ぶことができます。ほかに金や原油などの商品価格に連動するETFもあり、株価に関しては株価指数と連動するというものだけではなく、逆の動きをするようなものもあるので、それらを組み合わせることができる柔軟性があるんです。
しかも、ETFをはじめとした投資信託は運用をプロに任せることができるので、分散投資の方法を自分で考える必要がありません。投資初心者でも失敗しづらく、上級者にとってもリスクヘッジの選択肢になるので、全体的に使い勝手がいいんですね。
KL:リスクを抑えられるというのは、投資においては大きなメリットに感じられますね。
郡司氏:リスクという観点で見ると、同じリスクを取った時に最大の収益を得たい、というニーズにはETFはとてもマッチしていると思います。
これはETFに限ったことではないんですが、分散投資をしてみたくても手元に資金があまりない、という場合には投資信託は選択肢のひとつになります。そしてそんな投資信託の中でも、先ほどお話ししたようにETFは投資信託と比べて信託報酬という手数料が少なめです。なので、少額で分散投資を始めてみたい人や、長期的に分散投資をして塩漬けにしておきたい、リスクヘッジの手段として運用しておきたい、という目的なら投資信託よりもETFの方が向いています。たくさんのリスクを取ることには不向きでも、低リスクのままで最大限の収益を取りたい、という目的には適しているわけです。それに、先ほども説明したようにETFはリアルタイムで分散投資ができるので、値段を見ながら売買したい、という人も投資信託よりETF向きかもしれませんね。
数万円から少額スタートが可能で細かな利益を積み重ねられる
KL:では、具体的にETFを購入するとなったら何から買っていくのが良いのでしょうか?
郡司氏:わかりやすさから言えば、各国の株式市場のインデックスに合わせて買っていくのはひとつの方法でしょう。
リスクをできる限り抑えたい人や、何に投資すればいいかわからないという場合、やはり指数連動型などが候補になります。指数連動型のETFを購入すれば投資初心者でも簡単に分散投資をすることができますからね。もっとたくさんの選択肢から吟味していきたい場合は、それこそ日経225などのほかにも、新興国に投資するという方法もありますし、アクティブ型ETFなどもあります。もっと大きな視点で見るなら、世界株式に連動するようなETFを買うのも有りですね。そうやって、いろいろな種類を織り交ぜながら少しずつ投資する銘柄を広げていくのも良いと思います。
KL:ありがとうございます。銘柄に続いて、最低限用意しておきたい資金額や理想的な保有期間についても教えていただけますか?
郡司氏:資金額については、ETFならそれこそ2〜3万円くらいでも始めることは可能です。
少額から指数連動型の商品を買っていけば、手数料無料の証券会社も多いので、税金の分を差し引かれても少しずつ利益は見込めるでしょう。もちろん、新NISAと組み合わせることも可能ですし、投資初心者の場合はそういったところから始めていくのが安心です。
保有期間に関しては人によって、また銘柄によっても最適な答えは変わりますが、分配金もあるので最低でも1ヶ月くらいは持ってみることをおすすめします。
私なんかはリーマンショックの時、今しかないなと思って買った銘柄があって、大分値上がりしています。私の場合はたまたまそういうタイミングに巡り会っただけですが、そうやって長期的な視点で持っていくのも有りですね。一方で、個別株のように1日単位での売買などを考えているなら、あまり頻繁に売買すると税金がかかってしまいますし、個人的にはETFよりも株式の方が向いているのではと思います。長期で保有するメリットと、短期で売買するメリットとを秤にかけた場合、ETFならやはり長期の方が得られるリターンは大きいのではないでしょうか。
KL:確かに、こうしてお話をお聞きしているとETFならではの様々な魅力が存在するのですね。
ETFの特徴として分散投資についてもお話しいただきましたが、分散投資そのものの強みについても教えていただけますか?
郡司氏:分散投資がリスクヘッジに効果的であることはすでにお話しした通りですが、利益を得ることについてもメリットがあります。
分散投資は単にいろいろな銘柄に分散できるというだけではなくて、価格が上がっている銘柄も、下がっている銘柄も両方をない交ぜにして運用できる点が非常に重要になります。上がる銘柄と下がる銘柄、そのどちらもから配当が得られることに加え、変動によるリスクも抑えることができるため、旨みだけを取っていくような手法を取れるんです。つまり、分散投資ができるETFは効果的なリスクヘッジと同時に、上昇銘柄と下降銘柄の差分で生じる利益だけを得られる強みがあるわけですね。
とはいえETFは分散投資が基本なので、単体では得られる利益には限界がありますし、取れるリスクにも限界があることには注意しなければいけません。ETFだけで大きな財を成そうとすることは難しいので、あくまでも今ある資金を少しずつ増やしていきたい、という場合に適した投資方法だと理解しておきましょう。
大きな利益を狙いたいならETF単体ではなく他銘柄も運用する
KL:すると、仮にFIREを目指すような儲けを出したい場合には、ETFで資金を増やしてから株式に移行するといった流れが良いのでしょうか?
郡司氏:そうですね。初めはETFからスタートする方がわかりやすいですし、リスクも抑えられますから。投資初心者が今から新規に参入するのであれば、株式よりもETFの方が気軽に参入できる分野といえます。
投資で資産を増やしていくイメージとしては、ETFとリスクが高めの資産とを組み合わせて、リスクヘッジをしながら運用していくのが良いと思います。ETFにはいろいろなタイプがあるので、変動倍率が指数に対して2倍になるレバレッジ型や、運用会社が選んだ銘柄でポートフォリオを組んだアクティブETF、高配当の銘柄に絞ったETFなど、比較的リスクが高めに設定されているETFを選ぶのもひとつの方法になるでしょう。
ただし、株式投資は財務諸表などを見ながら、個別株の割安・割高などを判断して売買する必要があります。企業の財務指標に張りついて分析できる時間があったり、最新情報を手に入れられる環境でない限りは、市場に負けてしまう可能性もどうしても高くなります。なので、まずは安定した運用を目指してETFをメインにしておき、慣れてきたら株式の勉強を始めるくらいでも良いのではないでしょうか。
KL:大きな利益を上げやすい投資だと、株式以外に暗号資産(仮想通貨)も思い浮かびますが、暗号資産(仮想通貨)ETFについてはどのように考えるべきでしょうか?
郡司氏:ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)のETFは、原資産の動きによってどれくらいフォーカスすべきかが変わってくると思います。
ただ、変動幅は非常に大きくなるはずなので、今ある通常のETFに比べるとリスクを取りやすい資産になるのではないでしょうか。それらのETFが日本の証券取引所でも承認されて上場し、売買できるようになるかはわかりませんが、もし取引するとなればそういったリスクは理解しておくべきです。それに、暗号資産(仮想通貨)のETFが日本でも取引可能になったとして、それらをどのように組み込んでいくのかは会社によって異なります。そういう意味では、投資信託のファンドがどういう組み方をしていくか次第で、銘柄の選び方も変わってくるでしょうね。
KL:貴重なお話、ありがとうございます。最後に読者の方へ向けてアドバイスをお願いできますか?
郡司氏:先ほどお話ししたように、ETFには通常の投資信託と違って値動きがあるので、買い時や売り時には気をつけなければいけません。
もちろん分配金は支払われますが、それが価格変動でかき消されてしまっては元も子もありませんからね。普段から値動きを気にかけながら、慎重に運用することが大切です。また、ETFでは分配金を受け取ることになりますが、再投資が自動で行われるわけではないので、投資額を増やしていきたいとなっても、新たに銘柄を購入する場合は自分で吟味して買い足していく必要があります。
それに運用するとなればいろいろな情報を調べたり、経験則から投資する金額を調整したりと、様々な判断をしなければならない局面も出てきますが、最も気をつけなければいけないのはその判断を早めに下すことです。事前に決めたよりも大きな損失が出てきたらすぐに損切りをするようにして、大きく儲けるよりも損を小さく抑え、少しずつ利益を積み重ねていくイメージを持つようにしましょう。分配金も長く貯めていけば金額は馬鹿になりませんし、分配金の存在によって、取引でマイナスが出ても相殺できるようなケースも出てきます。そして、貯まった分配金を再投資していけば、さらに大きな利益も見込めるはずです。